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セルフマネジメント

「料理に帳面のつけ方、そしてお洗濯! 選択肢はまだ三つも残っていますわ。」


ルナは他にも職種があることをアピールしつつ、

更に競走させる事を狙う。


「棟梁、あなた様だって、まだ『やる』と明言したわけではございませんわね? この絶好の機会チャンスを見逃すおつもりでしょうか?」


ルナは銀貨の輝きをさらに強調し、今度は広場に集まった他の親方衆や、商売人たちの顔を順番に射抜くように見つめた。


「....ルナ、....煽りすぎ。....親父さんたち、....鼻息....荒くなってる。....獣の....前に、....肉....投げ込んだ。」


リュンヌがナギナタを抱え直して警戒を強める中、ルナはさらに声を張り上げ、職人たちの「自尊心」という名の導火線に火をつけた。


「よろしいですか? あなたたちが教えるのは、単なる作業ではございません。それはルス神様が人々に授けた『生きる知恵』そのもの。」


ルナは真摯な雰囲気を意識して醸し出す。


「つまり、あなた様たちは今日この瞬間から、神の教えを広める『伝道師』と同じ格付けになられるのです!」


『伝道師』という、職人人生ではおよそ縁のなかった高潔な響きに、食堂の親父や商店の主たちが、思わず背筋を伸ばした。


「一週間で銀貨一枚。これは技術料であり、神の代弁者としての名誉報酬ロイヤリティでございます! 」


やたらと今度は名誉を強調しだす。


「自分の腕に自信があり、なおかつ神様のお墨付きを背負って街を歩きたい方はいらっしゃいませんか? 」


そんな簡単に背を得るはずの無いものを、手の届く場所へルナは引き下げる。


「迷っている間に、この『聖なるシート』は埋まってしまいますわ!」


「....ルナ、....ストレートに....焚き付けた。....みんな、....自分が....特別だって...思い始めてる。....一番、....安い....詐欺。」


ルナの狙い通り、広場には「俺がやる!」「私の料理を教えさせろ!」という熱気が、商売敵への対抗心と共に膨れ上がっていく。


「さあ、どうなさいます? この神様からの御慈悲、広場に顕現するのは今この瞬間だけでございます。」


言葉だけ宗教用語のセールスは続く。


「それにですね....もし教え子たちの筋が良ければ、そのままあなた方のところで雇って頂けます。」


ルナは次のカードを切った。


「さすれば、『慈悲深き雇用主』としてルス神様の光を背負う機会まで得ることができますわ!」


ルナはとどめの「将来利得オプション」を提示した。


「....ルナ、....それ、.....人の……外出し。....育て済……労働....売りつける....つもり。」


リュンヌが小声で戦慄する中、広場の職人たちの目の色が完全に変わった。


単なる「一週間の技術を教えるバイト」ではない。


教会の公認を得て、国から、あるいは神から認められた「聖なる親方」として名声を高め、なおかつ即戦力の弟子まで手に入る。


「....おい、神官様! その『料理』の枠、俺に任せてもらおうじゃねぇか! 街一番の煮込みを作らせりゃ、俺の右に出る奴はいねぇ!」


「帳面ならうちの店だ! 根性のねぇ野郎でも、三日で叩き直してやるよ!」


我先にと手が上がる。もはや銀貨一枚は、単なる報酬ではなく「勝ち組の切符」へと昇華していた。


「ふふ、素晴らしいです。その意気ですわ! 」


ルナは、広場を見渡しながら満足気に呟く。


「よし、これで指導コストを街の親方に丸投げして、私は管理監督(ライセンス料徴収)に専念できるわ」と、悪魔的な確信を深めている。


「....ルナ、....顔。....吟遊詩人....じゃなくて、....ただの....悪徳親方。....でも、....広場の活気....すごい。」


リュンヌは感心する。その横でルナは更なる奉仕(外出し)を試みる。


「あら....困ったわ。皆様、そんなに熱烈に手を挙げてくださるなんて。」


鈴を鳴らす様な営業ボイスを少し上ずらせ、未熟な神官少女の嬉しさの極みを演出するルナ。


「ルス神様への信仰心が、これほどまでに街に溢れていたなんて、わたくし感動してしまいましたわ....。」


そこから、ルナはわざとらしく頬に手を当て、困ったような、しかし計算し尽くされた「戸惑いの聖女」を演じた。


「....ルナ、....嘘くさい。....絶対、....この展開....待ってた。」


リュンヌが小声で突っ込むが、広場の熱狂は止まらない。


我先にと名乗りを上げる親方衆の中から、ついに一人の男が声を張り上げた。


「おい、神官の娘! だったらこうしようじゃねぇか。」


聴衆が一斉にその男に注目する。


「俺たちの中で誰が教えるか、順番は俺たちで決める! その代わり、銀貨1枚じゃなくて、5人で銅貨20枚ずつに分けろ!」


普通の提案が、名案にこの熱気の中では聞こえる。


「それなら不公平もねぇし、みんなでこの『伝道師』の名誉を分け合えるだろ!」


「....! ルナ、....価格交渉....始まった。....銀貨1枚は、.....銅貨に直すと....だいたい100枚分。」


リュンヌは頼まれる訳でもなく、確認を初めた。


「....5人で20枚ずつ....。合計額は....変わらないけど、.....自分たちで....仕切り始めた。」


リュンヌは唖然とした。ルナが提示した法外な報酬が、職人たちの「連帯感」と「自治」を刺激した。


結果、彼ら自身にプロジェクトを運営させる流れ(セルフマネジメント)を作り出してしまったのだ。


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