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腐ったなんとかの方程式

「美しく慈悲深き神はある時、こう言いました。」


リュンヌの背筋に耐えられない悪寒が走り、リュンヌは身震いした。


「腐ったオレンジがキレイなオレンジと同じの箱の中に入っていると、やがて全てのオレンジが腐ってしまうであろう。」


ルナはタイミングを計り決め台詞を吐く。


「これを腐ったオレンジの方程式と。」


「....ルナ、....それ....説法じゃない。....ただの....もったいない....話。....あと、....オレンジ、....この街に....今ない。....美味しいけど。」


リュンヌの冷静なツッコミを、ルナは「これだから素人は」と言わんばかりの優雅な手つきで受け流した。


「よろしいですか? 皆様。これは『リスク管理』の比喩なのです。」


「ルナちゃーん、オレンジは品切れだぞ。」

露店の親父のヤジで、聴衆から笑いが起こるが

ルナはスルーした。


意地でも、このネタで説法を広げたいらしい。


「腐ったオレンジ——つまり、居場所を失い、自暴自棄になった元冒険者たちを、街という『箱』の中にただ放置してはダメ、絶対。」


何故か標語調になるルナの説法。

立て直せるか?


「いずれ不満や犯罪というカビが街全体(健全なオレンジ)に広がってしまうのです。これは損失ロスであります!」


ルナは広場の中心で、まるで見えないグラフでも描くように空中に指を走らせる。


「だからこそ! 腐りかける前に、あるいは腐ってしまった部分を切り落として『加工(再教育)』して差し上げたいのです。」


その場で両手を広げ舞うようのルナは回転し、聴衆にビシィっと指を向けた。


「ジャムやマーマレードという名の『付加価値商品』に作り変える必要が絶対なのです。それが、ルス神様の『オレンジ救済スキーム』!」


もはや、内容が何も頭に入ってこない。


「....ルナ、....神様、....そんな....食べ物、....みたい....話....してない。....みんな、....口開けて、....固まってる。」


確かに、広場の聴衆はルナの「アーティストすぎる説法」に圧倒され、ポカンとしている。


しかし、ルナの狙いはその先——群衆の中にいる、損得勘定に聡い「親方衆」の耳だ。


「――そこで、棟梁! そして食堂の旦那! あなた方は、この街で最も優れた『加工職人』のはずだわ。」


まるで投資家にプレゼンするように、左手を腰に当て、右手人差し指を立て振りながら歩くルナ。


「オレンジを腐らせたままにするか、それとも私の指導の下、新たな価値(利益)を生み出す側に回るか....。」


行ったり来たりする。まるでステージの上にでもルナはいるつもりらしい。


「どちらが賢い投資(選択)か、この教会の印を見て考えなさい!」


ルナはバサリと書類を突き出し、不敵に笑う。


「....ルナ、....結局....脅し....勧誘じゃない。」


リュンヌはため息をつき額に手を当てる。

「おふっ!」リュンヌ推しの魂が飛んだ。


「ただとは言いませんわ。最初の1週間、技術の基礎が身につくまで、銀貨1枚で見て頂けませんかしら。」ルナはスパンっと言い切った。


リュンヌはぶっ飛ぶ1週間で銀貨1枚は法外過ぎる。超高額報酬だ。


「....ルナ、....正気? ....一週間で、....銀貨、....一枚、....それ、....腕利き冒険者の....大きめの依頼....並み。....出しすぎ....終わる。」


リュンヌは慌ててルナの神官服を掴み、小声で必死に訴える。


だが、ルナの瞳には「損して得取れ」という冷徹な算盤が弾き出されている。


「落ち着きなさい、リュンヌ。これは単なる給与コストじゃなくて、『先行投資イニシャルコスト』よ。」


何かルナの背中から光が差しているように見える。単なる銭ゲバが太陽を浴びているだけだが。


「棟梁のような、この街の建設業界のキーマンを確実に、かつ即座にグリップするには、これくらいの『驚き(インパクト)』が必要なの。」


ルナはリュンヌの手を優雅に振り払い、視線を大工の棟梁に固定した。


棟梁は、今まさに「そんな面倒な話....」と立ち去りかけていたが、銀貨一枚という単語を聞いた瞬間、首が折れるような勢いで振り返った。


「....おい、神官の娘。今、なんて言った。一週間、手ほどきするだけで....銀貨一枚だと?」


半信半疑だが明らかに問いただす意図がある。


「ええ。ただし、私の選んだ『オレンジ(教え子)』たちが、一週間であなたの現場でも戦力として最低限機能するように叩き上げるのが条件。」


しっかりと条件を提示しつつ、相手のプライドをくすぐるのも忘れないルナ。


「あなたの『教える技術』に対するライセンス料だと思ってくださいませ。」


ルナは、まるで最高級の宝石を扱うかのように、王家の紋章が刻まれた銀貨を指先で弄んで見せた。


「....ルナ、....棟梁の目、....血走ってる。

....もう、....断る....選択肢、....消えた。」


「ふふ、当然よ。銀貨一枚の輝きは、職人の頑固なプライドを溶かすのに十分な温度を持っているわ。」


ルナ、結局は現物さまさまだと白状している様なものだ。


「――さあ、棟梁様。この『聖なる契約』、乗られますか、それとも見逃されますか?」


棟梁がごくりと唾を飲み込み、一歩前へ踏み出す。広場の野次馬たちも、その「法外な条件」にどよめき始めた。



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