錬金術使いのアーティスト?!
「リュンヌ、これが『無から有を生む』ルス神流の錬金術よ!」
ルナは神の名を白々しく使った。
「....ルナ、....神官....やめて。....金の....魔王....名乗るべき。」
リュンヌの頭痛は増すばかりだが、ルナの「最強の陣容」はついに整った。
「さあ、約束は10日後よ。プロの指導員たち(買収済み)を引き連れて、あの幽霊屋敷を『利権の要塞』に作り変える準備!」
「そしてこの銀貨一枚は、いざと言うときのへそくりじゃなくて予備費よ。」
妙に、慎重なところがあるのもルナである。
「....ルナ、....最後の一枚....隠した。....それ....絶対....美味しいもの....食べる用。」
リュンヌの疑いの視線を、ルナは聖職者らしい厳かな(しかしどこか実利的な)仕草で受け流した。
「あのねえ、リュンヌ。これは『リスクプレミアム』。あるいは『コンティンジェンシー・リザーブ(予備費)』よ。」
カタカナという概念に馴染みがないこの世界に、意味不明な呪文が垂れ流しになる。
事業には必ず計算外のトラブル――資材の盗難、あるいは想定外の賄賂(接待)が必要になる時が来るわ。」
神官が賄賂と口走る清々しさに、リュンヌの頭の中は偏西風が吹く。
「その時、この最後の一枚が命運を分けるの。」
ルナは慎重に、その銀貨一枚を神官服の内ポケットの、最も取り出しにくい「聖域」へとしまい込んだ。
「....ルナ、....慎重すぎて....逆に出す時が....怖い。....それ、....抜く時は....街が....ひっくり返る時。」
「ふふ、よく分かっているじゃない。この一枚を使う必要がないように立ち回るのが、私のプライド(コスト管理)なのよ。」
リュンヌはルナ「そんなもんいらん。」と本気で言いたかった。
ルナは例の辻説法の場へ行く。久々の辻説法だが何故か聴衆はピーピー言って盛り上がっている。
「リュンヌちゃーん!!」意味不明なリュンヌへの声援まである。
「....ルナ、....これ、....説法じゃない。....完全に、.....歌唱会場....。もう、....吟遊詩人、....名乗ったほうが……いい。」
リュンヌは、熱狂する群衆を前にナギナタを抱えて溜息をついた。
辻説法の場は、今やルナの「予言(事業計画)」と「毒舌(市場分析)」を楽しむ人々で、ヒナ鳥が餌を待つような騒ぎになっている。
「失礼ね、リュンヌ! これは魂の共鳴よ。私をただの語り部と一緒にしないで。」
ルナはドヤ顔で言い放った。
「――『アーティスト』とお呼びなさい!」
リュンヌは、その言葉の意味はわからないが信仰と関係ない浮かれた女のうわ言という事だけは理解した。
「右や左の旦那様じゃなくて、既に皆様お集まりいただきありがとうございます。」
どこの世界から引っ張って来たか分からない言葉を口走ったルナだが、営業ボイスとスマイルをすぐに取り戻す。
「『右や左の旦那様』....? ルナ、....どこの、....流浪の民の....口上? ....意味、....分からない。」
リュンヌが小首を傾げて困惑する中、ルナは一瞬だけ遠い目をした後、すぐさま完璧な営業スマイルへとギアを切り替えた。
「失礼、ちょっと別の世界の『伝統的な集客フレーズ(定型文)』が混ざっただけよ。」
そんなフレーズ分かるはずがない。
「――さて! 皆様、既にお集まりいただき、この事業への関心の高さ(市場流動性)に感謝いたしますわ!」
ルナの声は鈴を転がすような美声だが、その内容は相変わらず「聖職者」の皮を被った「冷徹な経営者」そのものだ。
「こちらにお集まりの、ルス神様の光に讃えられし敬虔なる皆様にお知らせがございます。」
ルナは祈りのポーズをリュンヌに目配せしてから見事に決める。
リュンヌが、ルナの強引な目配せに折れて、諦め混じりに(しかし完璧に訓練された動作で)聖なる祈りのポーズを決めた。
その瞬間、広場の空気が更に情熱的になった。
「....おふっ....!」
あちこちから魂が抜けるような、あるいは昇天するような、短くも重いリュンヌ推しの吐息が漏れ聞こえたのだ。
「....ルナ、....今の、.....何? ....あっちの....靴屋....倒れた。」
「ふふ、あれは『信奉者』の断末魔、あるいは産声よ。」
ルナは低い声で笑う。
「リュンヌ、あなたの『無自覚な清廉さ』は、今やこの事業の貴重な広告資源なのよ。」
ルナは祈りのポーズを崩さぬまま、腹話術のように囁き返す。
彼女の背後には、ルナが放つ「神々しいまでの銭の気配」と、リュンヌが醸し出す「ガチの聖職者感」が奇跡的なブレンドとなっている。
その空気感が集まった群衆を燃え上がらせる。
「さあ、静粛に! 皆様のその熱き信仰心(推しへの情熱)を、今日からはこの施設の再興にぶつけていただきたいのですわ!」
ルナは顔を上げると、慈愛に満ちた(しかし瞳にはリュンヌ推しの財布を射抜くような鋭い光を宿した)笑みを浮かべ、声を張り上げた。
「....ルナ、.....祈りながら....おっちゃんらの....足元、.....見てる。……えげつない。」
「当然よ。祈りとは神に届けるもの、そして何か我が神様への『奉納』を行うもの。」
もはや推しへのお布施を更に強要するつもりらしい。そして、場が暖まった様子を見て説法を再開する。




