最高級のアメリカンビーフ
「彼女と同じ土俵(豪華さ)で戦っても勝ち目はないけれど、圧倒的な『気品』と『センス』を見せつけるのよ。」
リュンヌは、ルナの今の収入なら第二夫人と変わらないのでは?という気がしたがスルーした。
「彼女は私たちを自分を引き立てる『最高のアクセサリー』だと誤認してくれるわ。」
ルナはリュンヌに歩み寄り、その少し湿った前髪に、魔法のように髪飾りを差し込んだ。
「....あら....不思議....。リュンヌ、鏡を見てよ。ただの可愛い護衛が、一瞬にして『格式ある家柄の護衛騎士』に見えるわ。」
「....本当だ。....キラキラ、....してる。....でも、....これ、....重い。....前が見にくい……。」
「我慢なさい。その『重み』が信頼という名の信用なのよ。」
文句は言いつつも、リュンヌは、髪飾りが気に入ったので話をそのまま聞く。
「明日は第二夫人のサロンで、彼女の『浄財』をいかに効率よく『あばら家の内外装工事費用』に変換させるか....。」
さっきまでの少女達のファッションショーが台無しである。
「その最終折衝を行うわ。リュンヌ、あんたは横で凛としていればいい。」
いつもの『黙って座っとけ司令だ。』
「それだけで私の言葉に『武力という名の裏付け』が加わるんだから。」
ルナは自分の髪も手際よくまとめ鏡を見て確認しつつ、悪魔的なまでの自信に満ちた笑みを浮かべた。
「明日は『慈悲深き第二夫人』という虚像を、この街で輝かせる提案をするわ。その後ろで実利を握るのは、私たちだけどね。」
「言って下級貴族。だからコストはこの程度でも十分なリターンはあるはず。」
明日、スポンサーをお願いしにいく相手をここまでけなすかという発言を平気でするルナ。
「そう、目指すは最高級のアメリカンビーフよ! 脂の乗り切った市場を丸ごと喰らい尽くしてやるんだから!」
ルナは拳を握り、夜の静寂を切り裂くような根拠のない自信を爆発させた。
「....ルナ、....それ....たぶん、....違う。....何か....美味しい....食べたいだけ。」
リュンヌはジト目で、ルナの「対コストパフォーマンス反応」が妙な方向に加熱しているのを見逃さなかった。
ルナが自信満々に叫ぶ呪文や謎の概念は、時折こうして致命的にズレる。
だが、そのズレこそが彼女の「強欲なエネルギー」の源泉であることも、リュンヌは経験的に知っていた。
「失礼ね、これは上昇志向のメタファーよ。さあリュンヌ、明日はその髪飾りに恥じない歩き方をなさい。」
ルナは突如作法教室の先生になった。
後の発言が失礼千万だったが。
「下級貴族なんて、こちらが『自分たちより格上かもしれない』という空気を微かに漂わせるだけで、勝手に財布の紐を緩めるわ。」
ルナはゆったりとした服の裾を翻し、ベッドに滑り込んだ。
「....アメリカン....ビーフ。....美味しそう....だけど、....明日、....お腹、....鳴らないか....心配。」
「ふふ、大丈夫よ。第二夫人のサロンなら、最高級の茶菓子が出るはず。それも全部『経費(プレゼン費用)』として胃袋に収めましょう。」
翌日、珍しく髪をまとめ髪飾りをつけたルナと前髪に慣れない髪留めの高級ピンをつけたリュンヌは第二夫人の実家へ向かう.
「....見た目....聖女....中身....銭女。....神様、....これ、....詐欺....ならない?」
リュンヌは慣れない髪留めの違和感に眉をひそめつつ、隣を歩く「完璧な聖職者」を横目で見た。
今日のルナは、まるで慈愛を形にしたような柔らかな微笑みを浮かべ、歩調さえも上品だ。
しかし、その瞳の奥で目まぐるしく計算機が弾かれているのを、リュンヌは見逃さない。
「失礼ね、リュンヌ。これは『パッケージング』よ。中身がどれほど優れていても、外装が伴わなければ市場価格は上がらないわ。」
普段は付けない髪飾りのついた銀髪を、ふわりと揺らしながらルナはリュンヌに微笑む。
「今の私は、第二夫人の虚栄心を満足させるための最高級の『投資案件』なの。」
第二夫人の実家――成金趣味な装飾が目立つ屋敷に到着すると、ルナは一瞬で表情を「敬虔な神官」へと切り替えた。
「あら、ルナにリュンヌ! まあ、今日の二人は一段と清らかだこと。その髪飾り、とても高貴な輝きだわ。」
出迎えた第二夫人が、扇子の隙間から羨望と優越感の混じった視線を送る。ルナは深く、優雅に一礼した。
「すべては夫人の慈悲深いお心に感化された結果ですわ。」
リュンヌにはルナの背後に特大の『お世辞』という文字が見える。
「実は....夫人のお名前を歴史に刻む、素晴らしい『浄化プロジェクト』の準備が整いましたの。」
「....歴史に、....刻む。....ルナ、....また....大きな....布....広げた。」
リュンヌは背後でナギナタを握り直し、これから始まる「甘い言葉という名の搾取」に備えて身を固くした。




