期間限定(タイムセール)
「いいわ、その意気よ。道具は第二夫人の『浄財』で用意させるから、あなたたちはその余った筋力と暇(休眠資産)を私に提供しなさい。」
「....ルナ、....本当は...慈善事業なんて、....ちっとも.....思ってない....。」
「iいつもいつも失礼ね。彼らに『仕事』という名の明日を与えているんだから、これ以上の聖業はないわ!」
「あとね、たまに大工の親方や街の料理人を呼ぶわ。これはあんた達にルス神様の御心を教えるためよ。」
「....ルナ....なんか....狙ってる。」
「あら、心外ね。ルス神様の教えには『技術の継承』も含まれているのよ。」
ルナは、心底迷惑だという顔をリュンヌにぶつける。
「一流の技に触れることは、魂の格付けを上げること....つまり、人的資本の価値向上に他ならないわ。」
ルナは聖職者らしい慈愛に満ちた(しかし目は笑っていない)表情で天を仰いだ。
「....うそ....絶対....裏....ある。....ルナ、....そんな....綺麗な理由....変。」
リュンヌの言葉にルナは声を落とす。
「ふふ、鋭いわねリュンヌ。いい? 街の親方や料理人を呼ぶのは、そういう層にあいつらの『安全性』と『有用性』を直接見せつけるためよ。」
腹心に全てを明かすように、誇らしげな表情でリュンヌに語りかける。
「スラムの人間が更生し、真面目に働いている光景を街の有力者に目撃させる.…。これが最高の広告よ。」
ルナは指を一本立て、悪魔的なまでの合理性を説く。
「いずれ彼らが『ここでは安くて良い労働力が手に入る』と街に触れ回れば、私の施設はただの託児所ではなくなるわ。」
確信を持ってルナは理想を口にした。
「そう、この街最大の『人材派遣・職業訓練センター』へと進化するわ。ギルドを通さない、私独自の労働市場の完成よ!」
「.....やっぱり....怖い。....ルス神様、.....ルナを....止めて....」
リュンヌが天を仰いで祈る横で、ルナは既に次の計算に移っていた。
「さあ、第一段階はクリア。」
浮き浮きした口調で、ルナはリュンヌに次の計画を打ち明ける。
「10日後に改めて来るわ。」とルナは路地に向けて叫ぶ。
「今日はまだ返事が出来ない人は、よく考えて決める事ね。次回は求人その場限りよ。」
「....お金....その場....では?。」リュンヌは謎呪文に小首を傾げる。
「『期間限定』よ、リュンヌ。決断を先延ばしにするコストがどれだけ高いか、彼らの生存本能に叩き込んであげたの。」
ルナは翻した神官服の裾を鮮やかに遊ばせ、スラムの入り口を後にした。
「....そんな……言葉……初めて。……ルナ、……それ、……なんの……呪文?」
「これは『機会損失の恐怖』という名の、最も強力な行動喚起よ。」
だから、それが謎呪文とリュンヌは言いたい。
「いつでも助けてもらえると思ったら、人間は甘えるわ。」
ルナよ、低成長期はお前も一緒だ。
「でも『今この瞬間を逃したら二度と底辺から抜け出せない』と思えば、死に物狂いで食らいついてくる。」
ルナは夕闇に沈むスラムを振り返り、計算し尽くされた冷徹な瞳を細める。
「....ルナ、....顔が....また....悪い商人。....でも....奥の人たち、....震えてた。」
「いい震えだわ。それは『恐怖』じゃなくて、停滞していた人生が動き出す『武者震い』よ。」
ルナの脳裏には既に景色が見えているようだ。
「10日後、あそこには選別されるのを待つ行列ができているはずよ。」
ルナはリュンヌとの宿への家路を急ぐ。
「さあ、次は第二夫人をこの『聖なる事業計画』の共犯者に仕立て上げに行くわよ!」
その日、風呂から上がると二人はお揃いで色違いのゆったりとした服を着てくつろいでいる。
ルナがリュンヌに「明日は私達の余裕を見せる日。リュンヌも着飾るわよと言い出す。」
「....服....無い。」
リュンヌは言う。
ルナは何時の間に手に入れたのか上品な髪飾りを見せびらかす。
「ふふ、これこそが『視覚的プレゼンテーション』の真髄よ。
ルナとて年頃の少女だ。
持っている物に浮ついているのが丸わかりである。
「私たちは困救者(スラムの救済者)である前に、圧倒的な『余裕』を持つ側だと誇示しなきゃいけないの。」
ルナは湯上がりの上気した頬を緩め、手元の銀細工の髪飾りをランプの光に透かした。
「....ルナ、....いつの間に....そんな....高いもの。....また、....お布施?」
「失礼ね、これは『戦略的備品』よ。いい? リュンヌ。明日会うのは、見栄と虚栄心で構成された下級貴族....第二夫人よ。」
リュンヌは以前、第4夫人騒動の時の第二夫人を思い出す。そうは見えなかった。




