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銅貨10枚風呂付き

ルナは殺気すらも『市場の熱気』と捉え、あえて大きな声で周囲の影へ語りかける。


「『汚れ仕事』は体力が必要だから高単価よ。でも、一番重要なのは『お風呂』。労働力のメンテナンスは投資の基本だわ。」


ルナは碧眼をぱちくりさせて言い放つ。


「体を清潔に保てない人間に、私の大事な『箱(施設)』の運営は任せられないもの。」


「....汚れた、....元冒険者、....お風呂、....入れる?」


「ええ。私たちが手に入れたあの廃屋には、幸いなことに井戸があるわ。」


聞えよがしにルナは大声で答える。


「第二夫人の『浄財』で薪を買い占めれば、そこは即席の公衆浴場(福利厚生施設)少なくとも湯浴び場に早変わりよ!」


ルナの目が、計算機を叩くような速さで明滅する。


「....ルナ、....金、....よそより、.....少し高い.。....ねえ、....貧乏....なるの?」


「いいえ、リュンヌ。これは『先行投資』よ。ギルドに捨てられていた彼らに『適正価格』を教え込み、依存先を私に塗り替えさせる....。」


急に小声になるルナ。


「これが最も安上がりな独占禁止法ハックの手口よ!」


その時、路地の奥から片足を引きずった男が、泥に汚れた拳を握りしめながら、おずおずと姿を現した。


「....おい。....その『汚れ仕事』ってのは....具体的に、何だ。」


ルナの口角が、勝ち誇ったように吊り上がった。


「子供達のオムツを洗った水を、穴に投げ込み落ち葉を被せて混ぜる仕事よ。」


ルナはすらすらと言う。

男はポカンとするが次に笑い出す。


「そんな事で給料くれるのか?」と言い放つ。ルナが臭いし重労働よと平然と言い返す


「笑わせないで。それがどれほど『街の公衆衛生バリュー』に直結する重要なインフラ事業だと思っているの?」


ルナは鼻で笑い、怯むことなく男の懐に一歩踏み込んだ。


「不衛生な排泄物は疫病の温床、つまりはこの街の経済的損失ダウンサイド・リスクそのものよ。」


ルナは圧をかける様に更に男に近づく。

小柄なルナだが怖気づく様子はない。


「それを適切に処理して堆肥化し、将来的に農地に売却できるまで管理する....。」


リュンヌはまさかそれもお金にすると驚く。


「これは立派な『循環型経済サーキュラーエコノミー』の根幹なのよ。臭いし、腰にはくるし、誰もが嫌がる。」


だからこそ、高単価を支払う価値があるの」


男は呆気にとられた顔をしていたが、ルナの真剣な――あるいは狂気すら感じる――実利主義的な眼差しに、徐々に笑いを収めていった。


「....ルナ.、....説明、....詳しすぎ。....でも、....男の人、....目....変わった。」


「当然よ。彼が笑ったのは『自分にできること』が見つかった安堵と、それが『価値ある労働』だと認められたことへの戸惑い。」


リュンヌに持論をぶつけると男の方をルナは振り返った。


「さあ、どうするの? 誇りを抱いてドブの中で野垂れ死ぬか、私の下でオムツを洗って明日への軍資金キャッシュを稼ぐか。」


ルナは敢えて試すような言い方をする。


「....へっ、面白ぇじゃねぇか。オムツ洗いだろうが何だろうが、やってやるよ。」


男が泥に汚れた手で握り拳を作り言い放った瞬間、スラムの空気が明確に変わった。


影に潜んでいた者たちが、一斉にルナの方へ「値踏み」ではない「期待」の視線を向け始める。


「リュンヌ、次。料理担当も探すわよ。胃袋を掴むことは、組織の離職率を下げる最も強力なガバナンスなんだから!」


どうやら、いくつかのプランをルナは用意しているらしい。


「あと、ずっと参加する気はなくても今回の大工仕事や雑用ならするという人も受け入れるわ。」


様子見しているであろう者達に、ルナは呼びかける。


「一律、銅貨二枚よ! プロの大工仕事なんて求めてないわ。」


もはや説法の口調などとっくにかなぐり捨てて、

実利を取りに行くルナ。


「ただ『住める状態』に戻すための、最低限の修繕パッチワークができれば十分よ!」


ルナの声が、スラムの淀んだ空気を切り裂くように響いていく。


「....ルナ、....また....安く、....買い叩く....。大工さん、....怒る。」


リュンヌはルナに心から忠告する。


「いいえ、リュンヌ。これは『技能実習』よ。廃材を再利用リサイクルして、自分たちの手で新たな場を作る。」


「そのプロセスを共有させることで、組織への帰属意識ロイヤリティを高める極めて低コストなチームビルディングよ。」


ルナの宣言を聞き、路地の奥で震えていた元冒険者たちの肩が揺れる。


剣を振るっていた筋力があれば、釘を打ち、腐った柱を補強することくらいは造作もない。


「....おい、俺なら屋根の補修くらいはできる。足場が悪くても関係ねぇ、元スカウト(斥候)だ。」


「俺は力仕事だ。あばら家のガレキを運ぶくらいなら、片腕でもお釣りがくるぜ。」


一人、また一人と、影の中から男たちが這い出してきた。


彼らの瞳には、かつての冒険者としての矜持が、ルナが提示した「銅貨二枚」という極めて現実的な報酬によって再点火されている。




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