トカゲ(王家)の尻尾切り
突如、王が立ち上がり衛兵を呼ぶ。
「この武官を拘束せよ!あと本日の貴族院はこれにて閉院だ!光主どもは残れ!」
「あら、随分と強引な『取引停止』ね。」
ルナは、衛兵たちに引きずられていく男の無様な姿を、冷めた目で見送った。
王が叫び、無理やり幕を引こうとするその姿は、粉飾決算が露呈した瞬間に夜逃げを企てる経営者のそれと酷似している。
「王様、そんなに急いで閉め出さなくてもいいのに。これからが本当の『債務整理』の時間でしょう?」
ルナは隣で肩を震わせているリュンヌの背を、優しく、しかし確固たる意志を込めて支えた。
彼女の碧い瞳は、玉座に居座り、怒号で場を支配しようとする王の「焦り」を正確に値踏みしている。
「……ルナ、……あいつ、……連れて行かれた。……でも、……終わってない」
「ええ、分かっているわ、リュンヌ。」
ルナに声をかけるリュンヌの横では、相変わらず副光主がリュンヌの肩を抱き抱えグスグス泣いている。
「あの男を拘束したのは、王家がトカゲの尻尾切りをして『法人(王家)』としての責任を回避しようとしているだけ。」
ルナは冷静に状況分析を行う。
「……光主様、残れと言われましたわよ。どうやら王様は、私たちと非公式の『示談交渉』をご所望みたいね」
光主は、荒れ狂う議場の中心で、岩のように微動だにせず、ただ静かに目を細めて笑った。
「フン。閉院、か。真実という名の相場の変動を、力で押さえ込める、と思っているとは……」
「貴様らは何が望みなのだ。もはやあの者は使わん、幽閉する。」と王が宣言する。
「……幽閉? またそれ(損切り)でお茶を濁すつもりかしら」
ルナは口元を歪め、玉座に座る王を真正面からせせら笑った。
その瞳には、王家の権威に対する恐怖など微塵もなく、ただ「経営能力の欠如」に対する底冷えするような軽蔑だけが宿っている。
「『魔法を見つけた男』と同じように、地下の暗がりに放り込んで帳簿から消せば、それで債務が消えるとでも? 」
もはや救いようがないといった調子でルナは王に告げる。
「……王様、あなたの管理能力は、あのあばら家で朽ち果てている老人と同じレベルまで堕ちたようね」
「貴様……! あれは国家の安寧のために必要な処置であったのだ!」
王の怒号を、ルナは冷徹な「正論」で切り裂く。
「安寧? 笑わせないで。一人の天才を使い潰してゴミのように捨てることが、この国の利益になると本気で思っているの? 」
ルナはそれが単なる王家の権威保持のみだった事も見抜いたうえで王を見つめる。
「彼の頭脳が、どれだけの『計算』をこの国にもたらすはずだったか……」
そして、冷静に結論を述べた。
「それを目先の不祥事隠しのために廃棄したのは、明白な『国家的損失』よ」
ルナは一歩前に出、あえてリュンヌの存在を強調するようにその肩を抱いた。
「今回露呈した勇者の不祥事も、その『魔法の男』の件も、根っこは同じ。」
ルナには王が臆病な男としか見えていない。
「王家という組織が、他人の資産(才能・人生)を、自分たちの延命のためだけの『消耗品』として扱っていることだわ」
そして、自分達が何を求めているか王に告げる。
「いい、王様。幽閉なんて生ぬるい『資産の凍結』で済むと思わないことね。私たちが求めているのは、そんな目隠しじゃないわ」
現状維持では済まさないということを突きつける。
「王家が隠蔽してきたすべての『負債』の開示と、奪われた資産の『正当な返還』よ」
光主が前に出た。
「それが嫌なら貴族院に我らの席を作ることですな。光主と副光主を議決権つきで。後は冒険者ギルドの幹部人事についても。」
光主は落ち着いた声で告げる。
「……ククッ、流石は光主様。弱り目に祟り目、いえ、『暴落した銘柄』を根こそぎ買い叩く手腕は見事という他ないわね」
ルナは光主の提示した条件を聞き、呆れ果てたように吐き捨てた。
だが、その瞳には同族の「捕食者」を見るような、奇妙に冷めた感心の色が混じっている。
王家が独占してきた「立法(貴族院)」と「労働市場(冒険者ギルド)」の支配権。
そこにルス教が議決権を持って割り込むということは、この国の「経営権」を半分奪い取るのと同義だ。




