幽霊部員、勇ましく名乗りをあげる
更にルナは言葉を続けた。
「そうそう。私、こう見えても末席ながら『光士』の端くれ。」
自らが小物ではないとルナは宣言する。
「教団の教義と、それに連なる高貴な方々のリストは全て脳内のデータベースに格納しておりますわ」
ルナは、まるで「計算が合わない」と嘆く会計士のような顔で、わざとらしく首を傾げた。
碧い瞳が、王や貴族たちの動揺を冷徹にスキャンする。
無論、ハッタリだ。貴族の顔など知っているはずもない。
「王家が寵愛し、勇者とまで称えられる高名な武官様……」
ルナはついに誰も言っていないのに武官は勇者だと先にわざと言った。
「それほどの『重要資産(VIP)』であれば、私のような者でも当然、お名前と御尊顔くらいは一致しているはず。……ですが、おかしいわ」
わざとらしく小首をかしげる。
「これほど整った、素晴らしい造形をお持ちの方を、私の『光士としての名簿』からはどうしても見つけることができないのです」
ルナはそこで言葉を切り、議場全体を凍りつかせるような不敵な微笑を浮かべた。
「いい、皆様? 私が知っている『公式な武官様』の中に、この人相書きの人物は存在しない。……ということは、結論は一つ。」
ルナは確信に満ちた声で言う。
「この男は、王家の正当な帳簿(名簿)には載っていない、いわば『裏帳簿で運用されている幽霊部員』」
それは、糾弾役の貴族ですら口にしてはならない機密のはずと確信してのルナの一撃だ。
「……あるいは、貴族院にギリギリ出席できる格だけを与えられた、所領も実績も実体もない『ペーパー貴族』ではありませんこと?」
ルナの追及は、正確に王家の急所を穿った。
「勇者」という名のアイドルを維持するために用意された、実体のない貴族位。
その不自然な「身分のロンダリング」を、ルナは神官としての知識と銭ゲバの勘で見事に暴いてみせたのだ。
「……ルナ、……すごい。……みんな、……口、……パクパクしてる。」
リュンヌが隣で、薙刀の鞘をぎゅっと握りしめる。
貴族たちの動揺は、もはや「怒り」ではなく「恐怖」へと変わっていた。
自分たちが勝ち馬だと思って乗っていた「勇者」という神話。
それが、一人の少女の論理によって、ただの「粉飾された不良債権」へと解体されようとしているのだから。
「王様。私、とっても不思議なんですの」
ルナはわざとらしく王に向かって言う。
人に対する感情が希薄なルナは一度勢いに乗ると畏怖など吹っ飛ぶ。
まして今はノリノリモードだ。
「どうして王家は、教団の名簿にも載っていないような『出所不明の男』を、これほどまでに必死に庇われるのかしら?」
ルナは、王にすら恐れることなく今や斬り込んでいく。憎らしいほど、光主の計算通りの展開に見事になっている。
「まさか、その男を隠し通さなければならない、もっと巨大な『未払い債務』が隠されている、なんてことはありませんわよね?」
ルナは見栄を切って続きに入る。
「まず、その方を……」とルナが言いかけた瞬間に一人の武官が大声を出した。
「調子に乗るな。俺がその勇者だ。魔王2代を続けて屠り……」
と言いかけて急に声が止まる。
そしてリュンヌを見て
「なんで、なんでお前がここにいる……ツキ」
と明らかな動揺を見せる。
「……あら。ご自分から名乗り出てくださるなんて、手間が省けましたわ。ご丁寧に『自己申告』ありがとうございます、勇者様?」
ルナは、叫び声を上げた武官を――いや、その勇者の皮を被った男を、冷徹極まる目で見据えた。
その瞳は、逃れようのない破産宣告を突きつける執行官の輝きだ。
「魔王を二代続けて屠った英雄の割には、随分と感情のボラティリティ(変動)が激しいのね。」
ルナは武官を嗜めるように言う。
「市場のリーダーがそんなに動揺して、どうするのかしら?」
ルナの声が、静まり返った議場に氷の楔のように打ち込まれる。男の視線は、幽霊でも見たかのようにリュンヌに釘付けになっていた。




