寄生虫から支配者へ?
申し開き当日、光主と副光主が、ルナとリュンヌが宿泊している宿に迎えに来た。
宿の窓から見下ろしたその光景は、「慈悲を説く宗教組織」の移動ではなく、他国を飲み込みに行く「巨大資本の武力介入」そのものだった。
「……あはは。光主様、これ、警備費用だけで王都の予算を数ヶ月分は溶かしてるんじゃないかしら?」
ルナは窓枠に肘をつき、冷ややかな視線でその威容を見下ろした。
甲冑に身を包み、一糸乱れぬ隊列を組む聖騎士団。
彼らの掲げるルス教の聖旗は、今日この日、王家への「最後通牒」という名の契約書に押される赤い印影のように不気味に鮮烈だ。
「……ルナ、……あの馬車、……重そう。……鎧の音、怖い。……戦争?」
リュンヌは不安げにルナに問う。彼女の肩には、光主が特別に用意させた、機能性と気品を兼ね備えた東方の意匠を汲む旅装束が纏わされている。
「戦争? いいえ、リュンヌ。これは『強制執行』よ。不渡りを出した債務者の家に、法の執行官を連れて乗り込むだけの事務的な手続き」
ルナは冷静にリュンヌに応じる。
「さあ、行こうか」
宿の入り口では、光主が泰然自若とした態度で待ち構えていた。
その隣で、副光主がいつも通りの華やかな微笑みを浮かべている。
「おはようございますわ、ルナ同志、リュンヌさん。本日は装いも、最高に華やかですわね」
「……副光主さまいやひかさま、……キラキラ、……してる。……まぶしい」
リュンヌは副光主の通常運転の言葉に、落ち着きを取り戻したようだ。
光主は、ルナの冷めた視線を真正面から受け止め、深く、低く笑った。
「準備は、いいか。王都の住人たちは、皆、この行進を、見守っている。真実という名の、信仰の力の上昇をな。」
「ええ、最高のパフォーマンスを見せてあげるわ。……光主様、その重たそうな聖騎士団、私の『清算』の邪魔だけはさせないでよね?」
ルナはリュンヌの手をしっかりと握り、教団の紋章が刻まれた馬車の扉を開き、靴音を高く響かせて乗り込んだ。
馬車の揺れに身を任せながら、ルナは窓の外に並ぶ聖騎士たちの背中を冷ややかに見つめた。
「王家と国教……。これほど不健全な『相互依存』も珍しいわね」
ルナの声は、馬車の車輪が石畳を叩く規則的な音に混じり、淡々と響く。
「王家は『神の代理人』という無形資産を安売りして、大衆の支配コストを下げようとする。」
ルナは、王家側から見た国教の価値をそう論じると、返す刀で国教側から見た王家の意義に私見を
述べた。
「対する国教は、王家の武力と公認という名の『独占禁止法免除』を利用して、競合他社を邪教として市場から強制退場させる……。」
そして次のように決めつける。
「お互いの弱みを握り合って、粉飾された平和を維持している共依存のビジネスモデルだわ」
「……ルナ、……難しいこと、……言ってる。……でも、……仲良し、じゃない?」
リュンヌが隣で小さく首を傾げる。彼女の手は、薙刀をぎゅっと握ったままだ。
「仲良し? まさか。これは、いつ相手を裏切って全資産を飲み込んでやろうかと手ぐすね引いている、最悪の『合弁事業』よ」
リュンヌの問いにルナは間髪入れず答える。
「協力しているように見えるのは、単に共倒れ(デフォルト)したくないだけ」
ルナは続けざまに言葉を放った。
「……ねえ、光主様? 今回の私たちの介入は、その均衡をぶち壊す『敵対的買収』みたいなものじゃない」
向かいに座る光主は、閉じた瞳の奥で深淵のような笑みを湛えたまま、微動だにしない。
「……フン。寄生、か。確かに、宿主が、腐敗すれば、寄生虫も、共に死す。」
光主はルナの言葉に一定の同意を示すと共に、不敵な言葉を紡いだ。
「だが寄生虫が、宿主を、内側から喰らい尽くし、新たな支配者へと、変貌することもある」
光主の言葉に、副光主は「あらあら」と扇で口元を隠し、少し不機嫌に目を細めた。
「寄生だなんて、光主様もルナ同志も言葉が過ぎますわ。」
副光主は真剣な顔で言う。
「私たちはただ、ルス神様の祝福を皆様に差し上げているだけです。……王家にくっついていることなど断じてありません」
「……ひかさま、……真剣な顔、……怖い。」
リュンヌが小さく呟く。




