動く広告塔(血統書付き)
「待って。所領がないのに貴族院の席(議決権)を維持できているってことは……」
ルナの頭の中でパズルが組み上がっていく。
「誰かが裏で『維持費』を肩代わり(サブスクリプション)してるってこと?」
光主は相変わらず無言のまま、深淵のような瞳でルナを見つめている。その沈黙こそが、ルナにとって最も雄弁な回答だった。
「……まさか。この『名ばかり貴族』が、例の勇者の正体だっていうの? 王家が用意した、血統書付きの『動く広告塔』……」
ルナの背筋に、初めて微かな悪寒が走る。
もし勇者が「制度」として実在し、それが王家の利益を守るための「武力行使機関」なのだとしたら。
「……光主様が次のターゲット? ふん、笑わせないで。実体のない偶像に、ルス教の強固な財務体質が破れると思うほど相手はバカかしら?」
ルナは光主の例え話には若干の意義を唱えつつ、頭を回転させる事はやめない。
「……でも、光主様。この『勇者』という名の不履行債権、リュンヌをぶつければ一瞬で『紙屑』になるわね?」
ルナは唇を吊り上げ、光主の沈黙の奥にある、国家規模の「強制捜査」のシナリオを読み取った。
「つながったか?馬鹿に地位を与えればなにをするか分かるな?」
「……馬鹿に、過剰な資本を融資すれば、どうなるか。……そんなの、市場が暴走して自壊するに決まっているじゃない」
ルナは光主の言葉の裏にある、吐き気がするほど醜悪な「権力の私物化」を読み取り、顔を赤らめた。
それは示すものを想像した恥じらいでもあり、同時にあまりに非効率で愚かな「女性への侮辱」への、凄まじい怒りでもある。
「……リュンヌは、その暴走した『勇者』という名の不履行債権に、すべてを奪われた……被害者の忘れ形見なのね?」
ルナの声が、わずかに低く、鋭く響く。
「王家が魔王という『敵』を捏造し、その討伐者として勇者をプロモーションする。
その裏で、邪魔な貴族を『魔族の仕業』に見せかけて処分してきた……。
リュンヌの母親がその『不都合な真実』を知りすぎたから消された、というわけ?」
ルナは机を叩き、椅子から立ち上がった。
彼女の瞳は、もはやビジネスの愉悦ではなく、友人の過去を「踏み台」にした国家という巨大な機構への、氷のような敵意に燃えている。
「ただ、相手が巨大資本、ね。実体のない信用で膨れ上がったバブルほど、弾けた時の衝撃は大きいのよ。」
ルナは自らに言い聞かせる様に、
独り言を言い言葉を続ける
「慎重に、かつ確実に『空売り』を仕掛けないとね」
ルナは光主が提示した薄い資料を指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
ルナは続けた。
「このアイドルの情報はこれだけ?」
「そうだな大っぴらには。」
ルナは光主が提示した薄い資料を指先で弄り、不敵な笑みを浮かべた。
「大っぴらに動けないなら、こっちの『草の根ネットワーク』……」
ルナは、光主の表情をうかがいながら自分の案を出していく。
「そう、敬虔な信者様たちの『口コミ(バイラル・マーケティング)』を利用させてもらうわ。」
そして具体的な実施時刻まで開示した。
「大聖堂での礼拝後なんて、情報の流動性が一番高まるゴールデンタイムじゃない」
ルナは立ち上がり、窓の外に広がる王都の景色を、まるで買収案件のリストを眺めるような冷徹な目で見下ろした。
「髪型と服装を冒険者風に……? ふん、それらしい『ストーリー性』を持たせれば、信者たちは勝手に尾ひれをつけて拡散してくれるわ。」
ルナは光主の案にのった。
「人探しという名の『市場調査』、開始よ」
光主の含み笑いを受け流し、ルナはすでに脳内で、王家という巨大な不履行債権を解体するための「広報戦略」を組み立て始めていた。
「……光主様。この『勇者』という偽造手形、私がリュンヌと一緒に、白日の下に引きずり出して無価値にしてあげるわ」
「わかった。次の礼拝までに用意しよう。」
光主とルナの会談が終わった。




