所領なしの貴族院参加資格
「王家が魔王と勇者を隠蔽したいのは、その対立構造が彼らの権威(利回り)を支える『マッチポンプ』だからでしょう?」
ルナは自分の意見を口にした。
「そこに本物の『終止符』が投げ込まれたら……」
「……左様。物語が終われば、物語を売る興行主は破産する。あの娘は、王家にとって最も不都合な『真実』という名の不良債権なのさ」
光主の含み笑いに、ルナはゾッとするような愉悦を感じた。
リュンヌの出生という「含み資産」が、世界をひっくり返すほどの爆発力を秘めている。
「いいわ。その案件、引き受けてあげる。」
それは古い権威への挑戦という最高難度のQOLだ。
「王家の帳簿を真っ赤に染め上げて、リュンヌと一緒に『物語の独占禁止法』を適用してやるんだから!」
「まずは、これが各地の教会が集めた資料だ。魔族が出ただの魔獣に襲われただのという記載がある。」
ここで、一旦光主は言葉を切ってルナの顔を見据えた。
そして尋ねる。
「これまでのお前の人生で、かようなものをみたことがあるか?」
「『魔族』なんて、実体のない恐怖を煽って予算を計上するための、古典的な『架空経費』の項目でしょ?」
ルナは光主が広げた羊皮紙を、まるで期限切れのクーポン券でも見るような冷ややかな目で一瞥した。
「魔獣に襲われた? 統計的に見れば、ただの『野生動物による不慮の事故』か、あるいは警備を怠ったことによる『管理責任の欠如』よ」
つくづく嫌気が差すという雰囲気を醸し出すルナ。
「それを魔のせいにするなんて、ガバナンスが効いてなさすぎるわ」
ルナは指先で資料をパサリと弾き、光主を真っ向から見据える。
「……光主様、本気でこんな『不透明な損失報告書』を私に信じろと言うの? 」
光主ですらアホなのか?という顔をルナはする。
「こんなの、市場を混乱させて自分たちの権威を高めようとする、質の悪いインフルエンサーのデマと変わらないわ」
「ははは……。やはりそう来るか。」
光主は、回答を予想していたようで心地よさげに笑う。
「だがルナ、この『真実味のないバカバカしさ』こそが、王家が何百年もかけて積み上げてきた、最も巨大な『虚飾』なのだとしたら?」
光主の目が、笑いを含みながらも底知れない深淵を覗かせた。
ルナはわずかに眉を寄せ、目の前の男が提示しようとしている「国家規模の粉飾決算」の正体を読み解こうと、脳細胞に燃料を過給させる。
「次だ、最近取り潰された貴族領の場所と魔王の居城、魔族や魔獣の出没場所、そして勇者のための寄付募集場所……」
光主は皆は言わず資料を置く。
「『魔王の居城』に『勇者への寄付』? ……」
ルナの雰囲気明らかにバカにしきったものになった。
「ぷっ、あははは! 笑わせないでよ、この整合性の欠片もない杜撰な事業計画書!」
ルナは資料を指先で弾き、お腹を抱えて笑い転げた。
聖域の静寂を切り裂くその高笑いは、信仰への侮辱というより、あまりに稚拙な「粉飾決算」を見せつけられた専門家の嘲笑だ。
「いい、光主様? 貴族領を潰して空き地を作り、そこに『魔王』という架空の競合他社を配置する。」
ルナは、自分の確信に満ちた仮説を披露する。
「一方で『勇者』という名のアイドルを擁立して、恐怖を煽って寄付金を募る……」
ルナは一転、冷徹な瞳で光主を射抜く。
「これ、ただの『マッチポンプによる広域集金システム』じゃない。」
ルナは光主に確認するように言う。
「王家と教会の一部が結託して、存在しないリスクを資産化してる。……違うかしら?」
光主は感心したのちに次の質問をする。
「……相変わらず、……えげつない読みだ。そして、次に勇者が刃を向けるのが私だとしたらどうする?」
「待ちなさいよ。勇者が実在するような馬鹿な口ぶりじゃない」
とルナは光主に言う。
光主は無言である貴族の経歴を出す。
「……所領なし? 資本金ゼロで上場してる幽霊会社みたいな貴族ね。」
ルナは小首をかしげる。
「こんなの、維持費だけで赤字垂れ流しじゃない」
ルナは光主が差し出した薄っぺらな経歴書を、ゴミを見るような目で一瞥した。
だが、その指先が止まる。実務能力に長けた彼女の脳内計算機が、この「不自然な空白」の持つ意味を弾き出した。




