おばちゃんのおやつにすらならないもの
「……ふん。あちらは純粋な好意という名の無償奉仕を要求してくるからな。」
副光主を褒めているのかけなしているのか分からない言葉を光主は吐く。
「実利で動く私の方が、お前にとってはよほど『計算しやすい』相手というわけだ」
光主の言葉には感情だけでは動けなくなった、自分の立場への自嘲もあるようにも聞こえる。
「評価してあげるわ。それで? その永劫の静寂を担保にするほどの『高難易度案件』って何よ」
ルナの瞳に、冷徹な詐欺師の光が宿る。
「……王都の喧騒に眠る、王家の『負の遺産』」
予想だにしない言葉を光主は口にした。
「帳簿にも載せられぬ、文字通りの固い鍵のかかった箱だ。これを、お前のその歪んだ合理性で、綺麗に『焼却』してほしい」
光主の言葉が、聖域の空気を一気に氷点下へと引き下げた。
ルナは唇をへの字にし、その任務を前に、呆れの混じった吐息を漏らした。
「それはなに、つまり王家にルス神様が、いや教会がもっと発言権を持つという事?非効率なやり方ね。」
ルナは光主に対し本気でバカバカしいという顔をする。
「全貴族に金貨をばらまけば済むじゃない。」
光主は
「お前、今年でいくつだ?」
と笑いながら聞く。
「17よ。発想に年齢など関係ある?」
ルナは若干ムッとした顔をする。
「17か。……若すぎる情熱と、老獪な計算が同居した、歪な年齢だな」
光主は皮肉げに口角を上げたが、その眼光は鋭い。
「金貨をばらまく? 浅いな。それは計算が狂いまくる我々にとっての『不確定要素』を増やすに過ぎん。」
光主のめの鋭さが増す。
「王家が抱えるのは、もはや金だけでは損切りできない、虚飾という名の『呪われた固定資産』だ」
ルナは退屈そうに銀髪を指で弄んだ。
「……虚飾? そんな換金性の低いものに固執するから、ポートフォリオが濁るのよ」
ルナは余計にくだらないという表情をする。
「王家だろうと教会だろうと、不採算部門は一気に清算すべきだわ」
「まさか、お前が最上の切り札を連れてここに登場するとは思わなかった。」
ルナも、流石に不審げな顔になる。
「魔王というのは聞いた事があるか?」
光主はルナに質問を繰り出す。
「魔王? ……ああ、あのおばさん方の『おやつ』のこと? 嗜好品としての依存性は認めるけど、今の私のポートフォリオには不要だわ」
ルナは鼻で笑い、完璧に手入れされた指先で机を叩いた。
光主の重々しい口調を、まるで「賞味期限切れの特売品」を掴まされたかのような冷ややかな視線で切り捨てる。
「違う。おやつの一つというのは噂話ということだろ。ルナよ?」
光主はそのルナの言葉に言葉を上書きする。
ルナは確かに比喩にその意味も込めた。
「魔王が噂よりも酷い、まやかしのための存在だとしたらどうする?」
光主の声が低くなった。
「……噂の種にもならない、ただの『架空資産』ってこと?」
ルナは光主の問いに、冷めた視線を投げ返した。
彼女にとって、正体の見えない伝説や恐怖は、市場を混乱させるだけの質の悪い「デマ」に等しい。
「魔王がまやかしなら、それはそれで結構だわ。」
ルナはバッサリ切り捨てた。
「存在しないリスクに怯えて過剰な警備コストを払い続けるより、さっさと『清算』して、その予算を実体経済に回すべきだもの」
ルナは組んだ指を解き、挑発するように身を乗り出す。
「でも、わざわざ私を呼んだってことは、その『噂』を利用して不当な利益を得ている輩がいるか……あるいは、帳簿に載せられない『致命的な欠陥』が王家にあるんでしょう?」
「……相変わらず、……可愛げの欠片もない。だが、その通りだ。魔王という『偶像』が消えれば困る者たちが、この国には多すぎる」
光主は少し機嫌よさげに言う。
ルナは問う。
「なによ?リュンヌがなんなのよ?」
「やはり子供だな。王家にとって隠蔽したいのは魔王と勇者。あの娘が、おそらく存在するだけで勇者は消えるだろう。」
光主は断言した。
「勇者が……消える? 物理的に? それとも、市場からの完全な『上場廃止』ってこと?」
ルナは光主を睨みつけ、脳内のスロットルを全開にする。
リュンヌの持つ価値が、単なる護衛から、国家の存立基盤を揺るがす「致死性の劇薬」へと書き換えられていく。




