ひかさま(副光主)守銭奴に尻尾ぶんぶん
「ひかさま、お知り合いだったのですか?」
若い女性神官が聞く。
「昔、昔に一度だけ、お互い幼い頃にルナ同志が光主さまに連れられてきた事があるの」
「あの時、そう言えばなんか遊ぼうと言ってきた子供が居た気もしないでもないわ」
興味がないと記憶もいい加減なルナである。
「色々遊ぼうって言ったけど『やだって言われて。ひこうりつとかむいみとか···』」
「……ルナ、……安定の、……冷血。……幼女の、……セリフじゃ、……ない。」
リュンヌは遠い目をして、呆然と立ち尽くす周囲の神官たちに、心の中で深く同情した。
目の前の「副光主」という最高位の少女ですら、ルナの容赦ない「効率フィルター」にかけられ、かつて切り捨てられた過去があるのだ。
「仕方ないでしょ、当時の私には『ごっこ遊び』の期待値がゼロだったんだから!まさか、あの時のひまわり、失礼ガキ、違う小さい子がねえ。」
ルナは頬を赤らめつつも、開き直ったように胸を張る。その堂々たる態度は、もはや清々しいほどの「営業妨害」だ。
「でも! 今のルナちゃんは、とっても立派な神官様になってる! 私、感動しちゃった!」
子犬のような副光主は、ルナの毒舌など気にする様子もなく、その手をぎゅっと握りしめる。
「……副光主様、……気持ち、……最強。……ルナの、……天敵。……いいぞ、もっとやれ。」
「ちょっと、他人事だと思って! ほら、さっさと用件を済ませるわよ。このままだと、私の精神的コストがサンクコストに変わっちゃうわ!」
冷徹な銀髪少女と、無邪気な権力者。その噛み合わない再会劇に、大聖堂の厳かな空気は完全に「身内のお騒がせ」へと塗り替えられていた。
「それでですね、あのあと街の冒険者ギルドはどうなりました?」
ルナに副光主はただのわんこ少女モードで聞く。
「『聖女の祝福分』のお礼以上のものはお渡しできましたか?」
「……副光主さま、……チョロい。……ルナの、……毒牙に、……自ら、……飛び込んでる。」
リュンヌは、主従逆転したかのような光景に、もはや乾いた笑いしか出なかった。
最高権力者の一角が、あろうことか「聖女の皮を被った守銭奴」に、利益供与の進捗を確認しているのだ。
「ええ、もちろんよ。ギルドマスターという『不良債権』を適切に処理(損切り)して、今は健全な運営体制に移行中だわ」
ルナは、冷静さを少し取り戻した。
「お礼どころか、地域経済の循環効率が三割は向上したわね」
ルナは慈愛に満ちた微笑みを崩さず、息を吐くように「粛清」を「最適化」と言い換える。
握られた手を振り払わないのは、相手が「太い顧客」だからに他ならない。
「……ルナ、……嘘、……ついてない。……でも、……言い方、……詐欺師」
「失礼ね、リュンヌ! これは高度な情報公開よ」
ルナはそしてリュンヌにも指示を出す。
「ほら、あなたもその『新調した装備(固定資産)』をお見せして、投資が有効に活用されていることを証明しなさい」
副光主のキラキラした視線と、ルナの冷徹な計算。
二人の少女に挟まれたリュンヌは、王都のど真ん中で、スラムの抗争よりも恐ろしい「女の交渉術」の深淵を覗いていた。
「よかったです。じゃ、産休育休制度も試行中なの?」
知恵袋の老神官も、副光主がここまでただの少女に戻る姿を見るは初めてだ。
『自らの動きが、世に影響を与え繋がっている』
と確認出来る格好の糸口がルナだからだろう、
と付き添って歩みつつ、老神官は自らを納得させる。
「……ルナ、……外堀、……埋めすぎ。……聖域が、……市場に、……なってる」
リュンヌは、副光主のあまりに世俗的(ルナ寄り)な質問に、めまいを覚えた。
老神官が、必死に自分を納得させようと虚空を見つめているのが、同情を禁じ得ない。
「当然よ。労働力の再生産コストを個人に丸投げするのは、組織としての長期的な『債務超過』だわ。」
意味不明な例えだが副光主は熱心に聞いている。
「優秀な冒険者という名の人的資産を使い捨てるなんて、それこそ神への背任行為でしょ?」
ルナは聖女の微笑みを浮かべたまま、エグい経済合理性を説く。
彼女にとって、愛や慈悲は「持続可能な運営」のための潤滑油に過ぎないのだ。
「……副光主さま、……聖典に書き込んでる。……お付きの神官さま、……呆れてる。……この聖堂、……もう、……ルナの庭。」
「失礼ね、リュンヌ。私はただ、この停滞した本部のポートフォリオを適正化するお手伝いをしてるだけよ。」
ルナはリュンヌをからかう様に言う。
「さあ、次は女性冒険者のギルドマスターへの昇格基準について話しましょうか?」
子犬のように頷く副光主と、獲物を見定めたルナ。
リュンヌは、大聖堂の静謐が「事業計画書」のめくる音に塗り替えられていくのを、ただ無言で見守るしかなかった。




