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わんこ女子登場

翌日、二人は呼び出しの少し前に王都の雑踏を抜けて、ルス教本部へ向かう。


「……デカすぎ。……これ、……綺麗なまま、……すごくお金かかる……」


見上げるリュンヌの視線の先には、空を突くような白亜の尖塔がそびえ立っていた。


緻密な彫刻が施された外壁は、朝日に照らされて神々しいまでの威容を放っている。


「ちょっとリュンヌ、口が開いてるわよ。圧倒されてる暇があったら、この建物の平米単価と固定資産税を計算するぐらいしてみたら」


ルナはいつもの毒舌を吐くが、その視線は鋭く周囲を走っている。


彼女にとってこの大聖堂は信仰の象徴ではない。


莫大な富が固定化された「巨大な不良債権」か、あるいは「最高効率の集金システム」にしか見えていない。


「……ルナ、……罰当たり。……でも、……確かに、……掃除、……大変そう。」


「清掃コストの話じゃないわよ! これだけの立地と資材を、ただ『祈るためだけ』に占有するなんて……」


リュンヌは、ルナの言葉をもはや聞く気すらない。


「ああ、私ならもっと多目的な商業コンプレックスとして収益化してみせるのに!」


憤慨する銀髪の少女を横目に、リュンヌは重厚な建物を見上げ感慨を深める。


二人は大聖堂に入るため、多くの地方から来た信徒や神官が並ぶ列に連なる。


と守衛の騎士がルナのチャームに気づき


「お二人さま!」


と慌てて声を掛けてきた。


「光士さまはあちらへと言う。」


『光士』という呼称にざわめきが起こり列にいた人々がルナに頭を垂れる。


「……ルナ、……顔……。……営業用、……全開。……怖い」


リュンヌは、一瞬で「聖女」へと変貌した相棒の横顔を盗み見て、背筋に冷たいものを感じた。


さっきまで維持費がどうのと文句を垂れていた少女はどこへやら、今は慈愛に満ちた光を振りまき、跪く信徒たちに優雅な会釈を返している。


「当然でしょ。ここで『ブランド価値』を毀損させるのは、将来的な寄付金への背任行為よ」


口角を上げたまま、腹話術のような小声でルナが応じる。


守衛の騎士に先導され、一般列をショートカットするその足取りは、「特権階級という名の優良債券」を回収しに行くかのように迷いがない。


「……騎士様、……必死。……光士、……そんなに、……偉いの?」


「偉いかどうかなんて、その地位が生む『キャッシュフロー』の規模で決まるのよ。


ほら、リュンヌも背筋を伸ばしなさい。あんたは私の専属護衛——つまり、この教会の重要資産アセットなんだから」


ざわめく群衆の視線を背に、二人は静寂が支配する奥の回廊へと消えていく。


その先に待つ「光主」という存在が、果たしてどれほどの「ベネフィット」をもたらすのか。


ルナの瞳には、すでに期待値の計算式が浮かんでいた。


「ふ、副光主さま……!」


聖騎士のうわずった声が、静寂な回廊に不釣り合いな緊張を走らせる。


だが、目の前に現れた美少女の纏う空気は、権威とは程遠い、純粋無垢な「懐かしさ」の塊だった。


「ルナちゃん! やっと、やっと会えたぁ!」


背後の神官たちの困惑を置き去りに、副光主と呼ばれた少女は、重力から解放されたかのようにルナへと飛びついた。


その様子は、厳格な教会の序列など霧散させるほどの熱量に満ちている。


「……ルナ、……この子、……子犬? ……しっぽ、……見える」


リュンヌは呆気に取られ、薙刀を握る手から力が抜けるのを感じた。


王都の権力者が、あの「効率の鬼」に対して、これほどまでに無防備な好意を向ける。


その光景は、どんな魔物との遭遇よりも非現実的だった。


「ちょっと、くっつかないで! 私の聖衣の減価償却が早まるじゃない!」


引き剥がそうとするルナだが、その毒舌にはいつもの刺がない。


「……ルナ、……顔、……負けてる。……旧知の、……お友達?」


「失礼ね、リュンヌ! これは……その、何かの間違いよ!ふ、副光主様が知り合いのはずないじゃない。」


謎の狂乱の中、計算高い銀髪の少女の頬が、わずかに朱に染まっていた。


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