ひかさま(副光主)の晴れ舞台
陽光が降り注ぐ王宮の中庭。
色とりどりの花々に囲まれたガゼボで、副光主は王妃殿下に対し、身を乗り出すような勢いで事の次第を熱心に語っていた。
「……信じられませんわ、王妃殿下!」
副光主というより少女に戻った状態である。
「 功績ある女性冒険者が、ただ『命を宿した(という報告があった)』だけで、相談の余地もなく切り捨てられようとしているのです」
王妃は、そんな副光主を妹分を見るようにな眼差しで見ながらその言い分を聞いている。
「これはもはや、我が国の倫理的損失に他なりません!」
傍らで静かに茶を啜る光主は、その様子を満足げに眺めていた。
彼が交渉相手に王妃を選んだのは、極めて高度な「戦略的ポジショニング」によるものだ。
同性であること、副光主との関係性の近さ、何より交渉が不発となってもどちらも非公式のお茶会で済ませれば傷がつかない。
「……まあ、それは嘆かわしいことですわね」
王妃は、副光主が持参した「聖女の祝福(生理用品)」の試供品を手に取り、その質の高さを確かめながら、静かに、しかし冷徹な声で応じた。
「その『ルナ』という光士が守ろうとした女性たちの尊厳……」
光主は『女性たちの尊厳』で王妃の声のトーンがわずかに力が入っている事に気づく。
おそらくいけると光主は踏んだ。
「それを踏みにじるような殿方が、支部とはいえギルドの長として居座り続けるのは、この国の『美徳』に傷がつきますわ」
「左様でございます! 王妃殿下のお言葉、痛み入ります!」
副光主は、自身の「正義」が王室の承認(格付け)を得たことに瞳を輝かせる。
光主は、ここで一歩前に出て、穏やかな笑みを浮かべながら最終的な「投資提案」を口にした。
「……つきましては、王妃殿下。まずは試験的な『組織正常化』として、当該のギルドマスターを解任し……」
光主はわざと溜めを作り次の矢を放つ。
「現場を知る聡明な女性を後任に据える……という人事案を、王家と教会の共同意思として進めるのはいかがでしょうか?」
王妃は優雅に頷いた。
「ええ、異存はありませんわ。……その『不良債権』、わたくしの名において、速やかに清算して差し上げましょう」
ルナが放った小さな書状が、王妃の「鶴の一声」という最強の執行力へと昇華された瞬間だった。
「……殿下(国王)には、いかがいたしましょうか?」
光主が、あえて念を押すように、しかしすべてを察したような含み笑いで問いかけた。
「構いませんわ。あの人には私から伝えておきます。」
問いかける必要もなかった。
「万が一、あの人が難色を示したとしても、この件一地方の『人事の淀み』を清掃する程度のことなら、私一人の裁量で十分に押し通せます」
王妃はティーカップをソーサーに戻し、迷いのない口調で言い切った。
その瞳には、一国の母としての慈愛と、最高意思決定機関の一翼を担う者としての冷徹な「執行力」が同居している。
それもそのはずだ。王家全体を揺るがすような法改正でもなければ、予算の根幹を削る軍事改革でもない。
対象は、あくまで一地方都市に巣食う、替えの利く「一中間管理職」の更迭に過ぎないのだ。
「……王妃殿下の力強いお言葉、感謝いたします。これで、市場の不純物を取り除くための『最強の裏付け』が得られました」
光主は深々と頭を垂れた。
「ひかさま、聞きまして? これで、あなたの大切なルナ同志が守ろうとした『現場の正義』が、王家の意思として認められたのですよ」
「はい、王妃殿下! ありがとうございます! すぐにでも、ルナ同志にこの『朗報』を届けて差し上げたいですわ!」
副光主は、自身の正義が王宮の最深部で結実したことに、ただの少女の顔で瞳を輝かせた。
王妃の「私で通せます」という一言。
それは、ギルドマスターという名の不良債権にとって、もはや何も通用しない「強制終了」が確定した瞬間であった。
(さて、銭導士。君の望んだ『女性ギルドマスター』、王妃殿下の署名入りの特等席として、最高の人事発令を準備してやろうじゃないか)
光主の脳内では、もはやギルドマスターの解任など「終わった事務処理」に過ぎない。
「教会の影響力拡大」こそが目的なのだから。




