光の狸
副光主が書状を上げたその日の午後。
ルス教の頂点たる光主は、副光主から提出された報告書を眺め、愉快そうに含み笑いを漏らした。
「ふふっ。流石は『銭導士』、期待を裏切らないいい仕事をする。自ら手を汚さず、本部の正義感をこうも鮮やかに引き出すとはね」
光主は、ルナが描いた「不条理なコストカットに立ち向かう聖女」という名の物語の裏側を、すべて見透かしていた。
だが、その収益性(社会的意義)の高さに、彼自身もまた「相乗り」する価値があると踏んだのだ。
「……パチンッ」
光主が軽やかに手を叩くと、背後で控えていた直属の聖騎士が音もなく膝をついた。
「明日の午後、王妃殿下との面談を設定してくれますか? 急ぎの案件だと伝えてくれ給え」
「はっ。……して、王妃殿下へのご説明の理由は、いかがいたしましょうか」
聖騎士の問いに、光主は窓の外に広がる王都の市場を見渡しながら、慈愛に満ちた、しかし計略的な微笑みを浮かべた。
「理由は――『尊き女性冒険者たちへの、大切な祝福のため』と。
思考回路がルナと一緒なのか似た文言だ。
だが、光主が言うと重みが違う。
「そう、ギルドという古い組織の規約に縛られ、輝きを失いかけている女性たちに、王家と教会からの『共同出資』を提案しに行くと伝えなさい」
聖騎士は感心しながら命を受けた。
「……御意に。直ちに手配いたします」
光主は、手元の書状を満足げに机へ置くと、退室しようとしていた聖騎士を呼び止めた。
「ああ、忘れていました。明日の王妃殿下との面談、副光主も同行させます」
これで、案件が通れば副光主の自信にもなるし、副光主にも権威がつく。冒険者ギルドの女性達を副光主に懐かせる事ができるという計算だ。
「彼女がこの件に注いでいる情熱は、王妃殿下への何よりの説明材料になりますからね」
そんな事は悟らせもしない光主の言葉に聖騎士は再び深く頭を垂れた。
「……承知いたしました。副光主様にもその旨、お伝えいたします」
聖騎士が去った静かな執務室で、光主は独り、窓の外に広がる王都の景色を眺めながら、チェスの駒を進めるような冷徹な笑みを深めた。
(……これで、教会が冒険者ギルドという聖域に『監査(首)』を突っ込む正当な理由が整った。)
本部のトップの最大の仕事は力という祝福をルス教にいかに引っ張って来るかだ。
新たな搦手の出現に光主は心躍る。
(……ふふ、ここは若き副光主に『正義の旗手』としての花を持たせてあげようじゃないか)
ルナが仕掛けた「不当なコストカット」という小さな火種。
それは、光主の手によって、王家をも巻き込む巨大な「組織改革」の炎へと燃え広がっていた。
「……さて、銭導士。君が投げた小石が、どれほど巨大な利回り(リターン)を生むか、特等席で見守らせてもらうよ」




