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言質を奪取!

「それと、看板を付け替えた瞬間にそこはギルドの支部扱い。名ばかりですけれど」


ルナは事もなげに言い放ち、一転して猫なで声を作った。


「でも、それでは申し訳ありませんもの。商人の方は、一体おいくら寄進チャージすれば、マスター様に直接お話しできるのかしら?」


謎掛けのような問いに、一同が沈黙する。


「……ルナ、それ……賄賂の相談?」


リュンヌの直球なツッコミを無視し、ルナは「公式な面会料」という名の新たな利権を、ギルドの喉元に突きつけていた。


「私共に神官様がする依頼など、ないと思いますがね」


ギルドマスターが探るような視線を向ける。だが、ルナは可憐な花が綻ぶようににっこりと微笑んだ。


「いいえ、そんなことはございませんわ。既にご存知のように、私共の『人材育成紹介所』からも冒険者になられた方がおいでですもの」


まるで、常に気にかけているような口ぶりだ。


「身内を応援したい気持ちは、人並みにございますわ」


その言葉に、リュンヌは


「……人並み……では絶対ない……」


と小声でツッコむ。


応援という名の囲い込み。


ルナの瞳は、未来の「稼ぎ頭」たちを自社の専属へ導くための、壮大な投資計画ポートフォリオを描いているようにリュンヌには見える。


「ふむ。そうですね。商人の方が手前どもに直接お話しして優先的に護衛を要請できるのは、金貨月一、二枚といったところですな」


ギルドマスターが、試すように事務的なトーンで数字を投げた。


「さようですか? ではその金額をお出ししますので、今すぐ書類を整えていただけますか?」


一切の迷いなく即答するルナ。その潔すぎる決済に、隣のリュンヌは顔を引きつらせた。


「……ルナ、銅じゃないよ、金……熱、ある?」


真剣な顔でルナの額に手を当てようとするリュンヌ。


だが、ルナはその手を優雅にかわし、ギルドマスターを見据えた。


「これは経費ではなく『投資』ですわ。優先権という名のプラチナチケット、金貨一枚で買えるなら安いものですわね?」


ギルドマスターの目が、初めて本物の「敵」を見るかのように細められた。


「最近は冒険で怪我をされて、やむなく引退された方がたくさん紹介所にいらしてくださって……」


若手職員が弾かれたように部屋を飛び出した後、ルナはティーカップを置くような優雅な仕草で、ごく自然な世間話を切り出した。


「おかげさまで、うちの託児所や警備部門も人手が潤っておりますの。」


ルナは心底ありがたいという顔をする。


「ギルドで培った経験を、セカンドキャリアで活かしていただく……素敵だと思いませんこと?」


ギルドマスターの眉がピクリと動く。それは「ギルドが使い捨てた人材を、私が有効活用して利益に変えている」という無言の宣告でもあった。


「……ルナ、それ……言っちゃダメ……なやつ?」


リュンヌが小声で牽制するが、ルナは


「人聞きの悪い。適材適所の再配置リスキリングよ」


と、ひんやりとした微笑みで受け流した。


「冒険者ギルドとしては、お怪我をされた方については、後は自由……放置レッセフェールなのですか?」


ルナは小首を傾げ、さも心外だと言わんばかりの声音で、わざとらしく続けて問いかけた。


その瞳は、ギルドの福利厚生の欠如という弱点を冷徹に突いている。


だが、ギルドマスターは眉一つ動かさず、酒場の喧嘩を眺めるような平然とした態度で応じた。


「冒険者になるということは、そういうことですよ。死ぬも生きるも、動けなくなるのも自分持ち。皆、それを分かって署名しているものです」


突き放すような、だがこの世界の残酷な真実。


リュンヌは


「……冒険者……自己責任……」


と小さく肩を竦めた。


だが、ルナの口角は、その冷たい返答を待っていたかのように、さらに深く吊り上がった。


「では、私共がやっているそちらについては?」


ルナが、獲物を罠に誘い込むような甘い声で問いかける。


「預かり知らぬことですね」


ギルドマスターは即答し、背もたれに深く体を預けた。


「冒険者を辞めた後の人生に口を出すのは、却って余計なお世話ですからな。」


本心からの言葉のようだ。


「引退後の身の振り方までギルドが管理するなど、それこそ自由を愛する連中には窮屈極まりない」


「……ルナ、これ……『勝手にやれ』ってこと?」


リュンヌが不安げに覗き込むが、ルナの瞳には既に勝利の計算式が完成していた。


「ええ、最高のご回答ですわ。マスター」


ルナは立ち上がり、神官服の裾を摘んで完璧なカーテシーを見せる。


「つまり、ギルドから溢れた『元・戦力』のセカンドキャリアを私共が独占しても、文句は仰らないということ。」


ルナは言質を取った事を次の言葉で強調した。


「……今の言葉、しっかり記録ログに残させていただきますわね?」


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