追憶 ―銭導士―
「ほう、奇妙な子どもとな。」
豪奢な装束に身を包んだ貴人が、品定めするように目を細める。
その視線の先、上質な生地製の神官服の男に引かれた銀髪の幼女は、周囲に関心がなく、ただ豪奢な調度品を値踏みするような目で見つめていた。
「左様です。親も匙を投げ、主に救いを求めてきた次第で」
神官は慇懃に頭を垂れるが、繋いだ手首を握る力には、慈悲とは程遠い冷徹な執着が混じっていた。
「なんで、こんなことしてるの、むだだよ。おじさん」
幼女が吐き捨てた言葉は、場にそぐわないほど冷ややかだ。神官は顔をひきつらせ、その細い腕をきつく締め上げる。
「これ、失礼ですよ。慎みなさい!」
だが、彼女は怯むどころか、小首を傾げて貴人を一瞥した。
「だって、このひととおはなしして、なにかべねふぃっとはあるの?」
打算に満ちた幼い声が、静寂を鋭く切り裂いた。
「なんだ、べねふぃっととは? 光主よ」
当惑する貴人に、神官は苦々しく首を振った。
「はて……左様、この通り面妖な言動ばかりゆえ、親も匙を投げたのです」
貴人は興味深げに身を乗り出し、幼女の視線に合わせる。
「これ幼女、名はなんと言う?」
「しらないひとになまえをいうのは、りすくがあるからいや」
感情を排した拒絶が、大人の理屈を無慈悲に突き放した。
「これ、ルナよ。ちゃんとお答えしなさい」
神官が焦燥を滲ませて嗜めるが、貴人は愉快そうに笑い飛ばした。
「よいよい。……では、好きな遊びは何だ? かくれんぼとかか?」
「なんでみつけられるためにかくれるの。むだだよ」
ルナは眉一つ動かさず、至極当然のように言い放つ。
「ひこうりつ。わざとみつからないようにすることに、りそーすをさくいみがないとおもうの」
「なるほど、全てこの調子か……」
貴人は呆れ果て、吐息を漏らす。
神官は
「申し上げた通りでしょう」
と、厄介払いでもするかのように肩をすくめた。
「しかし光主よ、貴殿も酔狂な。これほど面妖な幼女を、ルス教の大聖堂に置くとはな」
皮肉混じりの言葉に、神官の瞳が昏く光る。神域に招かれるのは、救いか、あるいは別の意図か。
「ふふふ。この娘は生まれ持って金銭感覚が異常だと、両親から聞いております」
神官は薄ら笑いを浮かべ、値踏みするようにルナの銀髪を撫でた。
「様子を見て、使い道が大きければ階位を与えるのも一興。それは労働を祝福とする、主の教えにも沿うかと」
信心深さの欠片もない、実利に基づいた聖職者の提案。ルナはその言葉を、ただ冷めた計算式を見るような目で聞いていた。
「ふむ、救いを説く光主の言葉とは思えぬな。階位名は?」
貴人の問いに、神官は口角を吊り上げ、慇懃に、かつ悪趣味に言い放つ。
「『銭導士』とでもいたしましょうか」
刹那、貴人は腹を抱えて爆笑した。その横で、ルナだけが小首を傾げる。
「ぜに、おかねだよね。なにがおかしいの?」
汚濁に満ちた大人たちの哄笑の中で、彼女の瞳だけが「お金一番」という真理を純粋に射抜いていた。




