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焼菓子の香りのするQOL

一番意外だったのは冒険者の老人だった。

彼は5人の応募者を全員引き受け毎日屋外で素振りや、動物の見つけ方などを教えている。


また他の老人に頼んで大工、料理、そして字を覚えさせているらしい。


ルナは


「いい感じよ。上手くすれば託児所の護衛に誰か雇えるし、冒険者ギルドからも公認がとれるかも」


とほくそ笑んでいた。


「……あのおじいさん、本気。……五人全員、地獄。……でも、……やめた、なし」


リュンヌは訓練場の隅で、泥にまみれながら木剣を振る少年たちに目を細めた。


技術だけでなく、生き抜くための読み書きや教養まで他から「調達」して叩き込む。


その手腕は隠居した老人というより、熟練の部隊長そのものだ。


「……ルナ、悪い顔。……護衛、ギルド公認。……そこまで、計算済み。……食えない、本当に」


ただの老人の暇潰しを、地域の防衛戦力へと昇華させる相棒の策略。


ルナは育成の苦労を他人に預け、自分は完成した果実を収穫するタイミングを計っている。


「……あの子たち、死にかけ。……でも、……背中、立派。……ルナの庭、……番犬、育ってる」


冷徹な先行投資が、着実に「力」という形を結び始めていた。


リュンヌは銀髪の相棒が描く、さらに巨大な未来の図面を想像し、小さく身震いした。


二人は帰りに焼菓子を買い、宿の部屋に戻る。宿の部屋に素朴な菓子の香りが漂う。


ルナは今日の視察で自分の計画が円滑に動いているのを確認し上機嫌だ。


「……お金……お菓子いっぱい」


リュンヌはつい口走る。


「あのねえ、あなたは私のデジタルサイネージじゃなくて広告塔で護衛なの。膨らむのは禁止なんだから!」

ルナが注意する。


「……膨らんだの、ルナ。」


「うっさいわよ!あんた最近言い返すわね!」


更に膨れるルナを見て笑いながらリュンヌは菓子をほおばった


「……ぷっ、……ルナ、……カエル。……怒ると、……顔、丸い」


リュンヌは口の中を菓子のほわっとした甘さで満たしながら、さらに頬を膨らませる相棒を観察した。


デジタルサイネージという聞き慣れない言葉の意味は図りかねるが、要するに「看板娘」と言いたいのだろう。


「……また……膨らんだルナ。……護衛、……仕事。……言い返す、……仕事」


不機嫌そうに声を荒らげるルナだが、その瞳には計画の進展に対する確かな充足感が宿っている。


厳格な指導者から、年相応の少女へ。その落差が可笑しくて、リュンヌはもう一つ菓子を口に放り込んだ。


「……美味しい。……今日、頑張った。……明日も、頑張る。……ルナ、……もっと、……膨らんでいい」


窓の外には、二人が変えつつある街の灯りが広がる。冗談を言い合える平穏な夜。


この温かな空気こそが、ルナの緻密な計算が導き出した、最大のご褒美なのかもしれなかった。


4章完


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