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『劇物』混入

ルナは次の言葉を発する。


「ここには私達と同じ方や少し年下の方もいらっしゃいますわよね?」


ルナの声が少し親しみの持てる年相応の声になっている。


「大工、食堂、商店、女性限定で針仕事ご興味のある方はいるかしら、こちらは焦らなくてもいいですわ」


仕事ではないことを強調するためもあるのかルナは考えるよう促した。


「習ってみたい方3人ずつ。1回目の祝福の募集ですわ」


「……今度は、私たち同じくらい、……もっと、……小さい子」


リュンヌはその内容を反復する。


「……ルナ、……大工に、食堂に、商店、針仕事。……これ、……ただの、仕事じゃない。……『手に職』。一生、食べていける」


リュンヌは、ルナが次に放った一手に、再び目を丸くした。


さっきの「祝福(堆肥作り)」が、体力のある男たちに向けた即効性の高い「生きるための糧」


ならば、この話は未来ある若者たちに向けた、より長期的な「投資」の話だ。


ルナの声は、若者たちの心に小さな、けれど消えない希望の火を灯した。


大工、食堂、商店、そして針仕事。どれもこの街で生きていくために欠かせない、

地に足のついた技術だ。


「……ルナ。……3人ずつ少ない。……でも、……焦らなくていい、言った。……それは、……じっくり、見極めるため。……ルナ、……やっぱり、怖い」


リュンヌは、熱狂の渦から一歩引いたところで、ルナの冷徹なまでの「選別眼」を感じ取っていた。ルナは、ただ可哀想な子供を救いたいのではない。


自分の商圏ビジネスを支える、質の高い「部品」を、泥の中から掘り出そうとしている。

リュンヌには少なくともそう映った。


「こちらは来週、お邪魔する時までによくお話し合いをされて決めておいてください。基本的にその方々を最初の祝福の対象といたしますわ」


そう告げるとルナは小さくリュンヌに頷きスラムを後にした。


翌週の月の曜日の昼過ぎの鐘が鳴り終えたころ、教会の一室には老人たちが集まっていた。


全員『元』が付くが大工、料理、商売、針仕事と希望した職種のおじいちゃん、おばあちゃん達が11人。


窓から差し込む午後の光が、集まった老人たちの皺の刻まれた顔を照らし出す。


穏やかな隠居後の再就職、そんな空気感を一瞬で切り裂いたのは、列の後ろに佇む「異物」だった。


リュンヌの背筋に、冬の冷水のような戦慄が走る。


ただの好々爺を装ってはいるが、その指先の硬結、足運びの合理性、そして何より内側から漏れ出る濃密な殺気の残滓。


それは明らかに、引退した高位冒険者のものだ。


「……なんで、化物、混じってる。……ここ、……ただの、面接」


リュンヌは引きつる頬を必死に抑え、ナギナタを握りしめた。


平穏なはずの教会の一室が、この老人一人によって一触即発の野獣との戦場のように思えてくる。


ルナの緻密な計算に、これほどの不確定要素が含まれていたとは。


「冒険者を指導いただく方は募集していませんが、なぜ?」


ルナは物怖じせず、弾むような足取りでその「劇物」へと距離を詰める。


老冒険者の眼光は鋭いが、彼女の計算高さの前ではそれすら一つのピースに過ぎない。


老人は「中には剣や薬草探しを覚えたいものもおるかもと思っての?」


意外と普通の動機を口にする。


「剣術に薬草採取。セカンドキャリアの充実としては最高ですわね」


ルナも調子よく合わせた。


老人の拍子抜けするほど淡々とした言葉に、リュンヌの肩からようやく力が抜けた。


最悪のシナリオ――ギルドからの妨害工作や刺客――が脳裏をよぎったが、どうやら単なる隠居の暇潰しらしい。


「……よかった。……ただの、物好き。……でも、……殺気、隠せてない。……教わる方、死ぬかも」


リュンヌは小声で毒づきつつ、鞘を握る手の汗を拭った。嵐が去った後のような脱力感。


だが、この規格外な新人?を「普通のおじいちゃん」として扱うルナの度胸に、改めて底知れぬ恐ろしさを感じるのだった。


結局、ルナは老人全員を採用した。


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