とある銭ゲバの謎説法
数日の間に、ルナは以前の託児所建設の伝手を辿り、
手に入れたあばら家の改装に手をつけた。
当初の託児所開設時に携わった大工の親方に同じレベルでいいので、時間が空いている時に手を入れて、人が勉強できる水準に改装して欲しいと頼んでいる。
「……改装、始まった。……託児所の時の、親方と大工さん見習い達。……みんな、ルナに、だまされてる。……安くて、早くて、丈夫な、……部屋」
リュンヌは、埃が舞うあばら家の中で、テキパキと仕事をこなす大工たちの姿を眺めていた。
ルナの「伝手」は、単なる仕事仲間以上の絆を築いていたらしい。
かつて子供たちの笑顔を守る場所を作った彼らにとって、今度は「人が学ぶための場所」を作るという依頼は、二つ返事で引き受けるに足る大義名分だった。
「……ルナ、……あばら家、放置しない。……中身、詰め込む、早い。……ルナ、外。……また、『演説』」
リュンヌはあばら家の様子を大工に任せると、ルナの後を追っていつもの広場へと向かった。
ルナはいつもの広場で得意の辻説法を始めていた。
「敬虔なるルス神様の御霊に守られし信者の皆様、盛り上がって、じゃなくてお聞きいただきありがとうございます」
「……ルナ、今、本音、……出た。……盛り上がれば、お金になる」
リュンヌは群衆の端っこで、ナギナタを杖代わりに突きながら、相棒の「いつもの」が始まったのを確信した。
「本日は、またもお願いです」
ルナの営業用ボイスが鈴の様に響く。
「今現在、街外れに前回の託児所の際に行ったような、事情によりお仕事を失ってしまった方に、新しいお仕事を覚えていただく場を作っています」
そして、何故か右腕を真っ直ぐ前に出したルナは親指で何かを弾くような動きをする。
「寛大なるルス神様の報酬である労働は努力で得るもの。ある少女が電撃聖典で言っています。空に舞う貨幣の放物線では未来は決められないと」
リュンヌも聴衆もまたもルナの意味不明な言葉に目を白黒させる。
「……は? ……放物線? ……お金、投げてるの? ……意味、全然、わからない」
ルナの口から飛び出した、電撃聖典なる詩的なのか、あるいは単なる思いつきなのか判別不能な「意味不明ワード」に、ざわめきが起こる。
偶然で未来が決まるわけではない……と言いたいのか、それとも単に格好をつけただけなのか。
「そう、その貨幣を撃ち出して貫く事で未来の答えが出るのです。その未来の答えを出すお手伝い、つまりは先生をお願いしたいのです」
「……未来、答え。貫く?……ますます、わからない。……ルナ、……病気、心配」
リュンヌは、ルナが紡ぎ出す「貨幣の放物線」やら「未来の答え」といった、哲学的なのか商売的なのか判別不能な言葉の数々に、本格的に眩暈を覚えた。
何を言っているのかはさっぱりだが、ルナの瞳に宿る「これで絶対に人を動かしてやる」という凄まじい熱量だけは、嫌というほど伝わってくる。
「週3日、1日銅貨2枚……。一線を退かれた皆様の知恵を、どうか次代の若者たちに授けていただきたいのです!」
ルナの呼びかけは、広場にいた隠居生活を送る老人たちの心に、絶妙な角度で刺さった。
現役時代のような激務ではなく、けれど自分の経験が誰かの役に立ち、かつ小遣いも手に入る。
何より「聖女」が自分たちを必要としているというシチュエーションは、彼らの自尊心をくすぐるには十分すぎるものだった。
「……週3、銅貨2枚。……おじいちゃん達、食いついた。……ルナ、心の隙間、……突くの、上手すぎ」
「では、来週の月の曜日、教会でお待ちしておりますわ。……ね、リュンヌ?」
「……え。……あ」
ルナの合図と共に、リュンヌは半ば強引に、人々の前で慎ましく手を合わせる「祈りのポーズ」を要求された。
断る間もなく、いつもの「無垢な少女護衛」としての役割を演じさせられる。
「おふっ」
広場のあちこちで、リュンヌの「全力の祈り」を直撃した熱狂的なファン(特に高齢層)が、あまりの尊さに崩れ落ちる音が響き渡った。
「……あ。また、倒れた。……ルナ、……これ、恥ずかしい、……もう、帰りたい」
説法は、リュンヌの無自覚なムーブによる「尊死者」を毎度ながら多数出しつつ、ルナの計算通り大成功のうちに幕を閉じた。
その足でルナとリュンヌは教会へ向かう。
「……教会。……なんだか、空気軽い。……みんな、……足取り、いい」
リュンヌは、教会の重厚な扉をくぐった瞬間に違和感を覚えた。
以前のどこか荘厳だが、奉仕という名の「義務」が漂っていた空気は消え失せ、今や活気に満ちている。
それもそのはず、ルナが仕掛けた「教会の労働組合」(ムーンライトユニオン)と「憐憫浄財割合向上策」(ベア)。
この二つが、この教会をルス教内で稀に見る「高収益・高モチベーション」の聖地へと変貌させていたのだ。
奥の広間で二人を迎えた大教会長は、もはや「聖職者」というよりは「絶好調のCEO」のような輝きを放っていた。




