ケレテレス上陸戦
クレイムとメイリスの話によるとこの奴隷の売買施設は既に魔王軍の特殊工作部隊により占拠済みらしく、手段はどうあれここに居た人間は全て無力化したらしい。
クレイムが言うにはロイス達が侵入した経路とは真逆の位置から侵入したそうだ。
「んで、お前は大して強そうにも見えねぇけどそこんところどうなんだよ?」
クレイムはロイスを見てそう言い放った。
彼はロイスが軟弱そうな男にしか見えなかった。あの神聖魔族をここまで連れてこれたのだから頭は切れるのだろうが。
「一応それなりには強いと思いますけど……スキルのおかげですけどね」
「まぁ、強さはメイリスみたいに見た目によらねぇからな」
「そうだよー、私はこれでもクレイムより強いからなー」
相変わらずおっとりとした口調で喋ったのはメイリスだった。
「自己紹介遅れたからするねー、私は七大魔将メイリス・シャン。蒼き鮮血って呼ばれてたりするけど、べつにそんな大層な人でも無いよー」
「蒼き鮮血……」
蒼き鮮血と言えば冒険者界隈で知らない人はそう居ないだろう。
と言うのも昔から名が知れていた訳では無い。最近の魔大陸侵攻の際に冒険者含む多国籍軍1万が身体中から青色に凝固した血液が吹き出し、全滅すると言う事件が起きた。
結局、この大量死の原因は魔王軍の捕虜を尋問した結果、蒼き鮮血と呼ばれる者の権能だと言うことが判明した。
とは言え、これ以上の情報は全く出ずこれが魔法によるものかそれとも固有のスキルなのか、そもそも蒼き鮮血と呼ばれる者は存在してるのか、その全てが不明だった。
半ば都市伝説扱いされていたが、今ロイスの目の前に蒼き鮮血と名乗る少女が現れたのだ。
「ほ、本当に、あの蒼き鮮血、その人なのですか⁈」
ロイスが唖然としていた隣でフィリアの声のトーンが明るくなり、目をキラキラと輝かせていた。
「そだよー、異名ばっか知られて本名は全く知られてないんだよねぇ、七大魔将の1人なのにね」
「お会いできて嬉しいです、まさか蒼血の大英雄に会えるなんて‼︎」
「そんな褒めたってーなんも出ないですよ?」
フィリアの反応からして、蒼き鮮血ことメイリス・シャンは魔族の中では英雄的存在なのだろう。
確かに敵軍を一人で壊滅させたのなら英雄と呼ばれて当然だ。人間で言うところの勇者に近い立ち位置の人物なのだろうか。
「もしかして1万人の軍勢を全滅させたって言うその人なの……か?」
「そだよー、あの時は頑張ったよ、お陰で身体中の魔素が抜けて2日は動けなくなったもん、それで君達の名前はなんなの?」
「俺はロイス・ハルシティア、見ての通り人間だよ」
「私はフィリア・アルミリスです」
「だったら、フィリちゃんとロイだねー、よろしくねー」
メイリスはそう和かに微笑んだ。
彼女が七大魔将、しかも蒼き鮮血だと言われて信じれる人はそう居ないだろう、ロイスも半ば信じれてないところがある。
外見で言えば無気力な幼い少女にしか見えないず、覇気の一つも感じさせない。
「ごたごたしてんじゃねーよ、時間ねぇんだからよ‼︎」
クレイムは声を荒げる。
「クレイムはせっかちだな、ほんとにさー」
「あぁ? 時間がねぇんだよ、俺達はここにいる全員を逃すまではのんびりできる訳ねぇだろうが」
「まぁそうなんだけどさ」
「とりあえず、手筈通りメイリスはここの奴らの移送を頼む、俺がその隙を作る」
「はいはーい、こっちはまかせてねっと……それで、フィリちゃんとロイも連れていくんだっけ」
「あぁ、こいつらから色々聞きたい事があるんでな、少し付き合ってもらうぜ。今も言ったが時間がねぇんだ、早く行くぞ‼︎」
クレイムはロイスとフィリアに鋭い視線を向ける。
その目は怒っている様に思わせるもので、不機嫌そうでもあるが、きっと本人はそんなつもりは無いのだろう。
「それじゃあ後でみんなで会おうねー、健闘祈るよー」
メイリスは手を振る。
「あ、あの……一ついいでしょうか?」
「どしたのー?」
「もし私の妹が居たら教えて貰えないでしょうか? 私と同種で名前はミルム・アルミリスと言います」
「勿論、見つけたら無事に送り届ける事を約束するよー」
「あ、ありがとうございます‼︎ 何と感謝を申し上げればいいか……」
「気にしないで、民を守るのも私たちの使命ってやつ? だしねー。それより、先にクレイムと一緒に外行ってて、わたしはここにいる全員外に連れてくからさ?」
「それじゃ行くぞ、ついてこい……」
ロイスとフィリアはクレイムの跡をついていく。檻が両脇に並んだ部屋を抜け、先へと進んでいく。
施設の彼方此方には無数の人間種の死体が転がっており、首を刈り取られていたり、青色の血液を身体中から吹き出して倒れていた。
クレイムの腰に下げているククリナイフを見ると血がべったりと付いており、クレイムが切り殺したのだろう。
更に道なりに進み、荷物を搬入する為の両開きの扉が目に映る。
「これは、久しぶりに楽しめそうだぜ‼︎」
クレイムは扉に耳を当て、何かを聞き取ったのか狂気的な笑みを浮かべて、扉を蹴り飛ばし粉砕させる。
「魔族の意地ってもん見せてやるよ、クソ人間ども‼︎」
クレイムはそう言うとククリナイフを手に持ち、外へと飛び出していった。




