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リボンが黒く染まるまで 〜救うほど闇に近づく魔法少女になってしまいました…!〜  作者: ぽころっと
Chapter 4 心に値段はつけられない

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第58話 一人で決めない!

白い部屋。


壁一面に黒い値札が並んでいる。


その中央で。


リノは、立ち尽くしていた。


目の前には、黄色いラベルのついた空の瓶。


《黄色代表 感情抽出準備完了》


その文字が、何度見ても消えない。


ミカドの声が静かに響く。


『君ひとりで、ひとりを救える。』


リノの指が震えた。


こはくが苦しんでいる。


待っている。


信じている。


だったら。


「私が……。」


小さく声が漏れた。


ミミルがはっとする。


「リノ?」


「私がここに残れば。」


「こはくちゃんは助かる。」


「それなら……。」


「ダメ!」


ミミルの声が白い部屋に響いた。


リノが振り向く。


ミミルは必死だった。


「それ、前と同じだよ!」


「え……?」


「また一人で全部決めようとしてる!」


リノの瞳が揺れる。


「でも!」


「こはくちゃんが今!」


「分かってる!」


ミミルも泣きそうな顔になる。


「ボクだって助けたい!」


「でも!」


「リノがいなくなったら。」


「それで本当に、こはくが喜ぶと思う?」


リノは何も言えなかった。


胸の奥に。


あの言葉がよみがえる。


――一人で戦うな。


――一緒に戦う。


こはくが差し出してくれた手。


そして。


ひまり。


るり。


みんな。


「……。」


ミカドの影が静かに揺れる。


『時間はありません。』


『黄色代表の感情抽出を開始します。』


「待って!」


壁の文字が変わる。


《感情抽出 開始》


     * * *


「っ……!」


こはくの身体に黒い光が走った。


「なに……これ……!」


胸元の値札が熱を持つ。


身体の奥から。


何かを引き抜かれる。


怖い。


寂しい。


悔しい。


嬉しかった。


助けたい。


守りたい。


全部。


奪われそうになる。


「や……。」


こはくは歯を食いしばった。


「イヤ……!」


頭の中。


リノの笑顔が浮かぶ。


「……リノ。」


     * * *


査定室。


リノが一歩前へ出る。


「やめて。」


『では。』


ミカドの声。


『決めなさい。』


『あなたが残るか。』


『黄色代表を失うか。』


リノの唇が震える。


「私は……。」


その時。


ドォォォン!!


査定室の扉が大きく揺れた。


「……!」


もう一度。


ドン!!


亀裂が入る。


ミカドの影が少しだけ揺れた。


『……。』


そして。


外から聞こえた。


「リノーーー!!」


リノの目が大きくなる。


「ひまり!?」


ドォォォォン!!


赤い炎が扉を突き破った。


煙の中から。


ひまりが飛び込んでくる。


肩にはピリカ。


「見つけた!!」


「ひまり!」


リノの顔が一気に明るくなる。


でも。


ひまりは笑わなかった。


真っ直ぐリノのところまで走る。


そして。


ぎゅっ。


手を掴んだ。


「……え?」


「一人で決めないって言ったでしょ!」


リノの胸が痛くなる。


「でも、こはくちゃんが!」


「だから!」


ひまりはリノの手を強く握る。


「一緒に助けるの!」


「リノがいなくなって。」


「こはくが帰ってきても。」


「そんなの、私は嫌だよ!」


「ひまり……。」


ひまり自身も。


その言葉を口にした瞬間。


少しだけ戸惑った。


胸が苦しい。


ただ友達だから。


仲間だから。


そう思っているはずなのに。


リノがいなくなることを想像しただけで。


怖かった。


とても。


「……とにかく!」


ひまりは顔を少し赤くして叫ぶ。


「勝手にいなくなるの禁止!」


ピリカが後ろで頷く。


「それは賛成!」


ミミルも飛び跳ねる。


「ボクも!」


リノは。


少しだけ笑った。


目に涙を浮かべながら。


「……うん。」


「ごめん。」


「謝らなくていい!」


ひまりは言う。


「帰るんだから。」


「みんなで。」


その言葉に。


リノはしっかり頷いた。


「うん。」


     * * *


『なるほど。』


ミカドの声が響いた。


ひまりがすぐに前へ出る。


「あなたがミカド?」


『赤代表。』


『予定より早かったですね。』


「リノを一人にするからでしょ!」


『興味深い。』


「何が?」


『灰色は。』


少し間。


『一人では完成しないのかもしれない。』


リノの表情が変わる。


「どういう意味?」


ミカドは答えない。


『続きを見せてください。』


白い部屋の照明が一瞬落ちる。


そして。


警告音。


ピピピピッ!!


     * * *


「こはく!」


パチルが叫ぶ。


るりたちは、巨大な黒い扉の前へ辿り着いていた。


その向こうから。


かすかな声。


「……パチル……?」


パチルの耳が跳ねる。


「こはく!!」


扉へ飛びつく。


「ここにいる!」


「こはく!!」


中。


こはくが顔を上げる。


「パチル……。」


その声を聞いた瞬間。


涙がこぼれた。


「来たの……?」


「うん!」


パチルは扉を必死に叩く。


「迎えに来た!」


「みんなで!」


こはくは。


少しだけ笑った。


「……そっか。」


るりは扉を調べる。


「普通の鍵じゃない。」


ポルルが耳を澄ませる。


「魔力を流すと、逆に閉じる仕組みみたい。」


「じゃあ……。」


るりが周囲を見る。


壁。


床。


天井。


そして。


水の配管。


「これ。」


るりの表情が変わる。


「装置を冷やせば。」


ポルルが頷く。


「一時的に動きを止められるかも。」


「やってみる!」


るりが両手を広げる。


青い水が壁の配管へ流れ込む。


「お願い……!」


水の温度が一気に下がる。


バキバキバキ……。


黒い装置に霜が広がる。


警告表示。


《抽出装置 温度異常》


《稼働率 低下》


「今だよ!」


ポルルが叫ぶ。


パチルが扉へ飛びつく。


「こはく!!」


でも。


最後の封印だけ。


消えない。


黒い値札が扉中央で光っている。


「開かない……!」


るりが悔しそうに歯を食いしばる。


その時。


通信機が鳴った。


『るりちゃん!』


「リノちゃん!?」


『こはくちゃん、そこにいる!?』


「いる!」


るりは叫ぶ。


「でも、最後の値札が壊せない!」


一瞬。


沈黙。


そして。


リノの声。


『私がやる。』


     * * *


査定室。


リノは壁いっぱいに並んだ黒い値札を見る。


今なら。


少し分かる。


それぞれが。


何かとつながっている。


鎖。


拘束具。


キャンディ。


瓶。


扉。


全部。


黒い値札を通して。


結ばれている。


「ミミル。」


「うん!」


「手伝って。」


灰色リボンが伸びる。


一枚。


黒い値札へ触れる。


「ほどく。」


リノは目を閉じた。


黒い線が。


頭の中に広がる。


複雑。


何本も。


何十本も。


その中に。


黄色い光。


「見つけた。」


ひまりが息を呑む。


「こはく?」


「うん。」


リノは灰色リボンを強く握る。


「こはくちゃんにつながってる。」


『何をするつもりです?』


初めて。


ミカドの声に少しだけ警戒が混じった。


リノは顔を上げる。


「言ったよね。」


「私は。」


灰色の光が広がる。


「あなたたちが奪った心を。」


「全部返す。」


値札が震える。


「まずは。」


「こはくちゃんから!」


灰色リボンが、一気に黒い線を駆け抜けた。


     * * *


こはくの胸元。


黒い値札へ。


灰色の光が走る。


「……!」


バキッ。


小さな亀裂。


「リノ……?」


バキバキバキッ!!


拘束具にも亀裂が広がる。


「パチル!」


るりが叫ぶ。


「今!」


「うん!!」


パチルが扉へ体当たりする。


ポルルが魔法を重ねる。


るりの水が一気に弾けた。


バキィィィン!!


黒い扉が砕ける。


「こはく!!」


パチルが飛び込む。


「パチル……!」


こはくは拘束具が外れた瞬間。


倒れそうになった。


パチルが胸元へ飛び込む。


「こはくーーー!!」


「わっ……!」


こはくは弱った腕でパチルを抱きしめる。


「……ちゃんと。」


「残ってたんだ。」


パチルは泣きながら頷く。


「約束したから!」


「絶対助けるって!」


「うん……。」


こはくは目を閉じる。


「いい子。」


るりもすぐに駆け寄る。


「こはくちゃん、大丈夫?」


「……まあ。」


立とうとする。


ふらっ。


「危ない!」


るりが支える。


「まだ無理しないで。」


「代表なめないで。」


「そういう問題じゃないよ。」


こはくは少しだけ笑う。


その時。


通信機。


『こはくちゃん!』


こはくの身体が止まる。


リノの声。


一瞬。


表情が柔らかくなる。


「……遅い。」


『ごめん!』


「ほんと。」


『ケガは!?』


「うるさい。」


少しだけ。


沈黙。


そして。


こはくは小さく呟く。


「でも。」


『え?』


「来てくれて。」


頬が少しだけ赤くなる。


「……ありがと。」


通信の向こう。


リノが一瞬黙る。


『うん!』


明るい声。


『約束したから!』


こはくは小さく笑った。


「……バカ。」


でも。


その声は。


少しだけ嬉しそうだった。


     * * *


突然。


施設中に警報が鳴り響く。


ピピピピピッ!!


赤い光。


《警告》


《回収対象 逃走》


《施設封鎖開始》


《黒キャンディ兵装 解放》


「まずい!」


ノアの通信。


『全員聞け!』


『商会全体が封鎖に入った!』


ラピスの声も続く。


『帰還経路が侵食されています!』


『維持できるのは――』


一瞬。


『三分です!』


「三分!?」


ひまりが叫ぶ。


『それ以上は、こちらから扉を維持できません!』


リノの表情が変わる。


「るりちゃん!」


『うん!』


「こはくちゃんをお願い!」


『任せて!』


その時。


商会の別の区画。


メイが。


黒いケースを開いた。


「逃げちゃいましたねぇ。」


リゼ。


「再回収開始。」


ユキノは優しく微笑む。


「せっかくですから。」


「最後にもう一度、遊びましょう。」


メイはケースをひっくり返す。


大量の黒いキャンディが。


床へ落ちる。


パリン。


パリン。


パリン。


パリン。


次々と割れる。


黒い煙。


無数のノイズ。


通路が。


真っ黒に染まっていく。


     * * *


るりに支えられながら。


こはくは前を見る。


「……来る。」


パチルが震える。


「いっぱい。」


こはくはるりの手から少しだけ離れる。


「こはくちゃん?」


「大丈夫。」


「でも。」


「まだ魔力が……。」


こはくは黄色いリボンを握る。


小さな火花。


ぱちっ。


消える。


もう一度。


ぱち……。


今度は。


少し長く。


琥珀色の雷。


「ほら。」


こはくは笑う。


「まだ戦える。」


るりは困ったように笑った。


「ほんとに無茶するね。」


通信越し。


リノの声。


『みんな。』


全員が耳を傾ける。


『帰ろう。』


『全員で。』


こはくは。


小さく頷いた。


「……うん。」


その瞬間。


通路の向こう。


黒い煙から。


大量のノイズが姿を現した。


赤い警告灯が。


何度も。


何度も。


点滅する。


残り時間。


《02:59》


リノは灰色リボンを構えた。


ひまりは炎をまとった。


るりはこはくを支えながら水を広げる。


そして。


こはくの指先に。


小さな琥珀色の雷が弾けた。


「行くよ。」


「みんなで。」

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