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リボンが黒く染まるまで 〜救うほど闇に近づく魔法少女になってしまいました…!〜  作者: ぽころっと
Chapter 4 心に値段はつけられない

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第56話 甘い罠

 暗闇の中。


 ほしふねカプセルは、ゆっくりと巨大な建造物へ近づいていった。


 ノワール・キャンディ商会。


 遠くから見れば、お菓子の城のようだった。


 丸みを帯びた塔。


 キャンディを思わせる飾り。


 淡く輝く窓。


 けれど、その周囲には無数の黒い値札が浮かんでいる。


 ふわふわと漂いながら、まるで生き物のように建物の周囲を巡回していた。


「……あれ全部、値札?」


 ひまりが窓へ顔を近づける。


 ピリカが耳を伏せた。


「触らない方がよさそう。」


「絶対ダメだよ。」


 ミミルが答える。


「神殿にあったものと同じなら、何が起きるか分からない。」


 その時。


 通信機からノアの声が響いた。


『そのまま直進するな。右へ進んで。』


「右?」


『値札は一定の間隔で巡回してる。十二秒後に監視が途切れる場所がある。』


 るりが目を丸くした。


「そんなことまで調べてたの?」


『違う。』


 ノアは淡々と答える。


『今、動きを解析してる。』


「……すご。」


 ひまりが思わず呟く。


『感心してる場合じゃない。五秒。』


「えっ!」


『四。』


「ちょ、急に!?」


『三。』


「みんな掴まって!」


 リノが操縦装置を握る。


『二。』


『一。』


『今!』


 カプセルが一気に右へ曲がった。


 黒い値札と値札の間。


 ほんのわずかな隙間へ滑り込む。


「うわぁぁっ!」


 ひまりがリノへしがみついた。


「ひ、ひまり!?」


「だって揺れたんだもん!」


 カプセルは黒い値札の群れを抜け、そのまま建物の下部へ向かっていく。


 ラピスの声が通信へ入る。


『その先です。』


『微弱ですが、内部へ続く空間の歪みがあります。』


 暗闇の中。


 小さな入口が見えてきた。


 その上にはキャンディの絵。


 そして。


《搬入口》


「……ここから?」


 るりが少し困った顔をする。


「他にないみたい。」


 リノは頷いた。


「行こう。」


 カプセルは静かに搬入口へ吸い込まれていった。


     * * *


 扉が開く。


 リノたちは慎重に外へ出た。


「……。」


 誰も、すぐには言葉を発しなかった。


 予想していたものと違いすぎたからだ。


「……かわいい。」


 ひまりが思わず呟く。


 壁は淡い桃色。


 天井からはキャンディ型の照明が吊るされている。


 床には星やハートの模様。


 どこからか、オルゴールのような可愛らしい音楽まで聞こえてくる。


「本当に商会なの……?」


 るりも戸惑っている。


 ピリカが鼻を動かした。


「甘い匂いもする。」


 けれど。


 パチルだけは笑わなかった。


「……こはく。」


 その一言で、全員の表情が戻る。


「行こう。」


 リノたちは奥へ進んだ。


 しばらくすると。


 ガコン。


 ガコン。


 機械音が聞こえてくる。


 大きな部屋。


 そこには、何本ものベルトコンベアが並んでいた。


 大量の黒いキャンディが流れている。


「これ……。」


 ひまりが拳を握る。


「神殿に投げてたやつ。」


「うん。」


 リノも頷く。


 その隣。


 別のベルトコンベアには、小さな透明の瓶が並んでいた。


 赤。


 青。


 黄色。


 桃色。


 色とりどりの光が、瓶の中で揺れている。


「綺麗……。」


 るりが近づこうとする。


 しかし。


「待って!」


 ミミルが止めた。


 るりが振り向く。


「どうしたの?」


 ミミルは瓶を見つめていた。


 その表情が青ざめていく。


「これ……。」


「気持ちだ。」


「え?」


「誰かから抜き取った気持ち。」


 静寂。


 リノは瓶を見る。


 赤い光。


 楽しそうに揺れている。


 その横の青い光は、今にも泣きそうに震えていた。


「これが……。」


「商品……?」


 ひまりの声が震える。


 るりは唇を噛んだ。


「こんなの……。」


「キャンディじゃない。」


 リノは灰色リボンを握る。


「人の心だよ。」


 その時だった。


「……!」


 パチルの耳が大きく動く。


「パチル?」


「こはく!」


 突然走り出す。


「こっち!」


「待って!」


 リノは咄嗟にパチルを抱き止めた。


「離して!」


「こはくがいる!」


「分かってる!」


「だったら!」


「だからだよ!」


 パチルの動きが止まる。


 リノはパチルを優しく抱える。


「絶対に助ける。」


「でも。」


「パチルまで捕まったら、こはくちゃん悲しむよ。」


「……。」


「一緒に行こう。」


「焦らないで。」


「ちゃんと。」


「みんなで帰ろう。」


 パチルの瞳から涙が落ちた。


「……うん。」


 ミミルが小さく笑う。


 リノ自身も気づいていなかった。


 少し前までなら。


 一番先に走り出していたのは、自分だった。


     * * *


 一行はさらに奥へ進む。


 やがて、狭い通路へ入った。


「足元気を付けて。」


 るりが注意する。


「うん。」


 リノが一歩踏み出した瞬間。


 つるっ。


「わっ!」


「リノ!」


「リノちゃん!」


 左右から同時に手が伸びた。


 ひまりが腕を掴む。


 るりが反対側から腰を支える。


「……。」


「……。」


 リノは二人に挟まれたまま固まった。


「だ、大丈夫……。」


「本当に?」


 ひまりが顔を近づける。


「ケガしてない?」


「うん。」


 るりも心配そうに覗き込む。


「足、痛くない?」


「大丈夫だってば。」


 リノが少し恥ずかしそうに笑った。


 ひまりとるりが顔を見合わせる。


「……。」


「……。」


 ピリカが首を傾げた。


「なんか今、変な空気じゃなかった?」


「気のせい!」


 ひまりが即答する。


「そう?」


「そう!」


 るりだけが不思議そうに瞬きをしていた。


 リノは何も気づいていない。


「早く行こう?」


「……うん。」


 ひまりはなぜか少しだけ頬を膨らませながら歩き出した。


     * * *


 十分。


 二十分。


 どれくらい歩いただろう。


「……おかしくない?」


 るりが立ち止まった。


「何が?」


「誰にも会わない。」


 全員が静かになる。


 確かに。


 ここは敵の本拠地。


 なのに。


 敵が一人もいない。


 警報も鳴らない。


 鍵のかかった扉すらない。


 進みたい方向へ。


 進みたいように進めている。


 通信からノアの声が聞こえた。


『……待て。』


 リノたちが止まる。


『全員、その場から動くな。』


「ノア?」


『簡単すぎる。』


 ひまりの表情が変わる。


「どういうこと?」


『敵の本拠地に侵入して二十分。』


『一度も妨害されていない。』


 リノの背筋に冷たいものが走った。


 ノアの声が鋭くなる。


『戻れ!』


 その瞬間。


ピピピピピッ――!!


 商会中へ警報音が鳴り響いた。


「見つかった!?」


 ひまりが身構える。


 天井へ赤い文字が浮かぶ。


 しかし。


 そこに書かれていたのは。


【灰色リボン 到着確認】


「……え?」


 リノの声が漏れる。


 さらに文字が続く。


【回収工程 第二段階へ移行】


「回収……?」


 るりが青ざめる。


 ミミルが叫んだ。


「罠だ!」


 その瞬間。


 ガコン!!


 床が大きく揺れた。


「きゃっ!」


 壁が動き始める。


「みんな離れないで!」


 リノが叫ぶ。


 しかし。


 巨大な壁が床から飛び出した。


「リノ!!」


「ひまり!」


 二人の間を壁が遮る。


「リノちゃん!」


 るりも走る。


 さらにもう一枚。


 ガコン!!


「るり!」


「リノちゃん!!」


 通路が完全に分断される。


 リノの隣に残ったのは。


「リノ!」


「ミミル……!」


 二人だけ。


 反対側。


 ひまりとピリカ。


 さらに別の通路には、るり、ポルル、パチル。


『リノ!』


 ノアの通信。


『聞こえる!?』


「聞こえる!」


『絶対に一人で進むな!』


「分かってる!」


 そう答えた瞬間。


 カチッ。


 リノの前。


 暗かった通路の照明が一つ点いた。


 カチッ。


 少し先。


 また一つ。


 カチッ。


 さらに先。


 光が順番に灯っていく。


 まるで。


 こちらへ。


 そう言っているように。


「……リノ。」


 ミミルが震える。


「うん。」


 リノにも分かった。


「これ。」


「私を呼んでる。」


     * * *


 商会の奥。


 無数のモニターが並ぶ部屋。


 その一つに、リノの姿が映っている。


 メイは楽しそうに笑った。


「いらっしゃいませ♪」


 リゼが端末を操作する。


「誘導成功。」


「対象分離完了。」


 ユキノはモニターのリノを見つめ、微笑む。


「大切なお友達を助けるため。」


「自分から罠へ飛び込んでくださるなんて。」


「本当に素敵な心ですね。」


 スピーカーから。


 低い男の声。


『予定通りだ。』


 三人が静かになる。


 黒須ミカド。


『黄はそのままにしておけ。』


 一拍。


『灰色を回収する。』


     * * *


 その頃。


 暗い部屋。


 こはくの頭上で、突然警報が鳴った。


ピピピピピッ――!!


「何!?」


 壁へ赤い文字が浮かぶ。


【灰色リボン 施設内侵入】


 こはくの瞳が大きくなる。


「……リノ。」


 一瞬。


 嬉しさが胸に広がった。


 来てくれた。


 約束を守ってくれた。


 でも。


 すぐに思い出す。


『あなたは餌です。』


 こはくの表情が凍る。


「ダメ……。」


 立ち上がる。


 黒い拘束具を引っ張った。


「来ちゃダメ!」


 バチッ!!


「っ……!」


 黒い光が身体を走る。


 それでも。


 こはくは止めない。


「お願い……!」


 もう一度。


 鎖を引く。


 バチィッ!


「戻って!」


「リノ!!」


 その声は。


 厚い壁の向こうへ届くことはなかった。


     * * *


 リノはミミルと二人、光に導かれるように通路を進んでいた。


 やがて。


 巨大な扉が現れる。


「……。」


 扉の中央。


 灰色の文字が浮かび上がった。


【灰色リボン専用査定室】


 ミミルの顔が強張る。


「リノ。」


「最初から……。」


「うん。」


 リノは扉を見つめる。


「私が来ることまで。」


「全部、分かってたんだ。」


 それでも。


 リノは逃げなかった。


 胸元の灰色リボンを握る。


「でも。」


「こはくちゃんも、この先にいる。」


「だったら。」


「行くしかない。」


「リノ……。」


「大丈夫。」


 リノはミミルを見る。


「一人じゃないよ。」


 ミミルは一瞬驚き。


 そして、力強く頷いた。


「うん!」


 その瞬間。


 ゴゴゴゴ……。


 巨大な扉が、ひとりでに開き始めた。


 暗闇。


 その奥から。


 低い男の声が響く。


「待っていたよ。」


 リノの表情が変わる。


 灰色リボンが。


 風もないのに、ゆらりと揺れた

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