第53話 前編 約束
「私たちの心は。」
リノは胸元の灰色リボンを握りしめる。
「誰にも。」
代表たちが頷く。
「売らせない。」
その言葉が神殿いっぱいに響いた。
次の瞬間だった。
ピピピピッ──!!
鋭い警報音が神殿中へ鳴り響く。
代表たちが一斉に顔を上げる。
天井いっぱいに赤い光が走り、無数の文字が浮かび上がった。
⸻
⚠ 警告
神殿結界 侵食中
結界出力 低下
危険度:最大
⸻
「っ!」
ラピスの表情が変わる。
「まだ終わっていません!」
神殿全体が大きく揺れた。
床へ黒いひびのような模様が広がっていく。
メイは口元へ手を当て、小さく笑う。
「もちろんですよぉ♪」
「せっかく皆さんの素敵な感情が育ったんですから。」
「ここで終わるわけありません。」
リゼは何も言わず、黒いケースを静かに開く。
中には、黒いキャンディがぎっしりと並んでいた。
ユキノが優雅に微笑む。
「それでは。」
「本日の追加商品です。」
リゼは一粒、キャンディをつまむ。
そして。
神殿の床へ投げた。
パリン。
乾いた音が響く。
割れたキャンディから黒い煙が噴き上がる。
煙は渦を巻き、一体の巨大なノイズへ姿を変えた。
「またキャンディ!」
ひまりが炎を構える。
しかし。
リゼの手は止まらない。
パリン。
パリン。
パリン。
次々と神殿中へ黒いキャンディが投げ込まれていく。
割れるたび。
黒い煙。
そして。
新たなノイズ。
一体。
二体。
五体。
十体。
あっという間に神殿はノイズで埋め尽くされた。
「数が多すぎる!」
るりが水の結界を展開する。
ポルルも一緒に魔法を重ねた。
「るり!」
「任せて!」
水の壁が星兎たちを包み込む。
こはねは神殿の柱へ手を添えた。
「これ以上、壊させません!」
植物が床を這い、崩れかけた柱を支えていく。
まひるは怯える星兎たちを抱き寄せた。
「大丈夫。」
「私たちが守るから。」
桃色の光が優しく広がる。
しおんは静かに影を伸ばした。
「右側は任せて。」
影が何体ものノイズを拘束する。
「ひまり!」
「うん!」
炎が一直線に駆け抜ける。
拘束されたノイズが次々と消えていく。
その横を。
雷が走る。
「邪魔。」
こはくだった。
琥珀色の雷が神殿中を駆け巡り、ノイズを一瞬で吹き飛ばす。
「後ろ!」
パチルが叫ぶ。
「分かってる!」
こはくは振り返りもせず雷を放つ。
ノイズは空中で砕け散った。
リノも灰色リボンを構える。
「ミミル!」
「いくよ!」
灰色リボンが何体ものノイズを縛り上げる。
ひまりの炎。
るりの水。
しおんの影。
代表たちの連携は、さっきまでとは比べものにならないほど息が合っていた。
その戦いを見ながら、メイは満足そうに拍手をする。
「素敵ですねぇ。」
「友情。」
「信頼。」
「絆。」
「全部、とっても価値があります。」
ユキノは静かに微笑んだ。
「感情エネルギー。」
「順調に上昇しています。」
リゼは端末へ視線を落とす。
「回収準備。」
「完了。」
リノの胸がざわつく。
「みんな!」
「何か来る!」
リゼが静かに右手を掲げる。
その指先へ。
黒い一枚の値札が現れた──。




