第51話 前編 代表査定
神殿に轟音が響く。
黒いキャンディが次々と砕け、そこから無数のノイズが姿を現した。
「来るよ!」
ひまりが一歩踏み出す。
ピリカが肩の上で大きく頷いた。
「ひまり!」
赤いリボンが炎のように揺れる。
「もう二度と、諦めない!」
ひまりは地面を蹴った。
炎をまとった拳が最前列のノイズを貫く。
ドォォン!!
爆発とともに、黒い結晶が四方へ飛び散る。
「まだまだ!」
燃え上がる炎は一羽の大きな鳥となり、空を舞うように神殿を駆け抜けた。
ノイズが次々と焼き払われる。
「すごい……」
リノは思わず息を呑んだ。
代表の力。
自分が想像していた以上だった。
「ぼーっとしない!」
今度はるりの声。
青い光が神殿いっぱいに広がる。
「ポルル!」
「うん!」
水の輪が何重にも重なり、押し寄せるノイズを包み込む。
「水は、守るためにも使えるんだよ!」
結界が星兎たちを包み、黒い結晶から守っていく。
避難していた星兎たちから安堵の声が漏れた。
「ありがとう!」
「大丈夫!」
るりは優しく微笑んだ。
その横を、一筋の雷が駆け抜ける。
「遅い。」
リノが振り向く。
そこには、こはくの姿があった。
一瞬。
本当に一瞬だった。
次の瞬間には、もうノイズの群れの真ん中にいる。
バチィッ!!
琥珀色の雷が神殿を照らす。
十体近いノイズが同時に吹き飛んだ。
「速っ……!」
リノには目で追うことすらできなかった。
パチルが得意そうに胸を張る。
「こはく、本気になるともっと速いよ!」
「余計なこと言わない!」
こはくは照れ隠しのように叫びながら、再び雷となって消えた。
その頃。
こはねは神殿の柱へ手を添えていた。
緑色の光が床を走る。
崩れかけた柱へ植物が絡みつき、神殿を支えていく。
「神殿を壊させるわけにはいきません。」
傷ついた星兎へも優しい光が降り注ぐ。
「ありがとう……。」
「まだ立てます。」
こはねは微笑んだ。
その後ろでは、まひるが怯える星兎たちを抱き寄せていた。
「大丈夫。」
桃色の光が優しく広がる。
「怖い気持ちは、私が半分もらうね。」
泣いていた小さな星兎が、少しだけ笑顔を取り戻した。
「……ありがとう。」
最後に。
紫の影が静かに広がる。
「逃がさない。」
しおんの影がノイズの足元を縛り上げる。
一歩も動けなくなったノイズを、ひまりの炎がまとめて焼き払った。
「ナイス!」
「当然よ。」
しおんは表情を変えない。
代表たちの息はぴったりだった。
リノはその光景を見つめながら、小さく拳を握る。
「みんな……強い。」
ミミルが肩の上で頷く。
「だから代表なんだ。」
神殿の上空。
メイが拍手をしていた。
「すごいすごい♪」
「さすが代表のみなさん。」
その笑顔は、どこか楽しそうだった。
リゼが静かに端末のような板を見つめる。
「戦闘データ収集中。」
「代表能力、記録開始。」
ユキノは微笑んだまま言う。
「笑顔も。」
「涙も。」
「全部、とても素敵な商品になります。」
リノの背筋が冷える。
この人たちは。
人として見ていない。
本当に。
商品としてしか見ていないんだ。
「ふざけないで!」
ひまりが叫ぶ。
「私たちは商品なんかじゃない!」
メイは首を傾げる。
「そうですか?」
「でも、みなさんの心は、とっても高く売れますよ?」
その瞬間。
リゼが静かに手を掲げた。
黒い紙切れのようなものが宙へ舞う。
「査定開始。」
値札だった。
黒い値札が、ひまりへ飛ぶ。
「燃えろ!」
炎が包む。
しかし。
値札は燃えない。
「えっ!?」
今度はるり。
「流して!」
水流が飲み込む。
それでも値札は消えない。
しおんの影が切り裂く。
「……切れない。」
神殿に緊張が走る。
ラピスが目を見開いた。
「皆さん!」
「その値札に触れてはいけません!」
全員が振り向く。
「あれは魔法ではありません!」
「感情を奪うための呪具です!」
「値札そのものが本体なのです!」
その時だった。
一枚の値札が。
リノへ向かって飛んできた。
「リノ!」
ミミルが叫ぶ。
リノは反射的に灰色リボンを伸ばした。
触れた瞬間。
バキッ――。
黒い値札へ、小さなひびが入る。
神殿中が静まり返った。
メイの笑顔が止まる。
「……え?」
リゼも初めて表情を変えた。
「異常確認。」
「値札損傷。」
ユキノが目を細める。
「灰色……。」
リノ自身も驚いていた。
「壊れた……?」
ラピスも息を呑む。
「まさか……。」
神殿の空気が変わる。
そして、どこからともなく低い男の声が響いた。
「……なるほど。」
黒須ミカドだった。
「計画を変更する。」
神殿の天井に巨大な黒い魔法陣が現れる。
そこへ七色の文字が浮かんだ。
査定対象
赤
青
黄
緑
桃
紫
灰
その中で。
灰色だけが。
赤く点滅し始める。
【最優先回収対象】
リノは思わず息を呑んだ。
メイは嬉しそうに笑う。
「決まりましたねぇ♪」
「やっぱり一番欲しいのは――」
「灰色です。」
神殿に静寂が落ちた。




