48.5話 ただいまの一歩
※この間章は本編と関係するお話です。
(足が動かせるようになったリノとミカたちの再会)
星の道を抜けると、見慣れた夕焼けの街が広がった。
柔らかな風が頬をなで、遠くから子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
「……帰ってきた。」
リノはゆっくりと息を吸った。
星兎の里で過ごした時間は長くはなかったはずなのに、どこか懐かしく感じる。
隣では、ひまりが大きく伸びをした。
「やっぱりこっちの空気も落ち着くね!」
肩の上ではピリカが嬉しそうに耳を揺らしている。
「でも、星兎の里も素敵だった!」
「うん。」
リノは小さく笑い、ミミルの頭をそっと撫でた。
「みんなに会いに行こう。」
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扉を開けた瞬間だった。
「リノ!」
ミカが勢いよく駆け寄ってくる。
その後ろにはルル、ノア、そしてセナの姿もあった。
「おかえり!」
ミカはリノを抱きしめようとして──その場で固まる。
視線がゆっくりと下へ向く。
車椅子がない。
リノは、自分の足で立っていた。
「……え。」
部屋の空気が止まる。
ルルも目を見開いた。
「リノ……歩いてる?」
ノアも珍しく驚いた表情を浮かべる。
「本当に……。」
リノは少し照れくさそうに笑った。
「ただいま。」
その一言で、ミカの目に涙が浮かぶ。
「……もう。」
ミカは強くリノを抱きしめた。
「心配したんだから。」
「ごめんね。」
「本当に……よかった。」
リノも優しく抱き返した。
「うん。」
「私も、また歩けて嬉しい。」
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少し落ち着くと、ルルがリノの前へやってきた。
「見せて。」
「え?」
「歩くところ。」
リノは少し照れながら、一歩、また一歩と歩く。
床を踏みしめる音。
その姿を見て、ルルは笑顔になった。
「よかった。」
「本当によかった。」
ノアも静かに頷く。
「……無理はしていないようだな。」
「うん。」
リノは笑った。
「ちゃんと歩ける。」
「でも、まだ少し慣れないかな。」
ひまりが元気よく言う。
「最初はゆっくりでいいんだよ!」
ピリカも胸を張る。
「ひまりも転んでたし!」
「ちょ、ピリカ!」
部屋に笑い声が広がった。
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「それで。」
ノアが真剣な表情になる。
「星兎の里はどうだった?」
リノは静かに頷く。
「すごく綺麗な場所だった。」
「でも……」
自然と表情が曇る。
「知らなかったことも、たくさんあった。」
天城先生。
クリスタル。
眠り続ける魔法少女たち。
白乃ゆら。
そして──人の心をキャンディへ変える組織。
全部を詳しく話すことはできなかった。
それでも、みんなは最後まで黙って聞いてくれた。
ルルが小さく息を吐く。
「そんなことが……。」
ノアは腕を組んだ。
「こちらでも少し調べていた。」
全員がノアを見る。
「街で、感情を失ったような人が少しずつ増えている。」
「原因は分からない。」
「でも偶然とは思えない。」
リノは胸元の灰色リボンを握った。
「やっぱり……。」
「商会が関係してる。」
ノアは静かに頷いた。
「可能性は高い。」
部屋の空気が少し重くなる。
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その時だった。
「……よかった。」
小さな声が聞こえた。
セナだった。
みんなの視線が集まる。
セナは少し照れたように笑う。
「歩けるようになって。」
「本当によかった。」
「ありがとう。」
リノが笑い返す。
その時、ミミルが鞄から顔を出した。
「リノ、みんな笑ってるね!」
セナの視線が、一瞬だけミミルへ向く。
驚くこともなく、優しく目を細めた。
「ちゃんと一緒だったんだね。」
「え?」
リノが聞き返す。
セナは慌てて笑った。
「ううん。」
「ミミルがいてくれて安心したってこと。」
「えへへ!」
ミミルは嬉しそうに笑う。
けれど、その耳だけがぴくりと動いた。
「……?」
何か引っかかる。
でも、それが何なのか分からない。
セナは何事もなかったように笑っていた。
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リノが飲み物を受け取ろうとした時だった。
セナの鞄についた、小さな星形のチャームが淡く光る。
ほんの一瞬。
誰も気づかないほど小さな光。
ただ一人。
ミミルだけが、その光を見つめていた。
「……今の。」
チャームは、すぐに何事もなかったように揺れた。
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穏やかな時間は長くは続かなかった。
窓の外に、小さな星の光が降り立つ。
ラピスだった。
「皆さん。」
静かな声が響く。
「準備はよろしいでしょうか。」
リノたちは立ち上がる。
ラピスは一礼した。
「星の神殿より、正式な招待が届いております。」
「代表魔法少女による魔法会議が始まります。」
ひまりは気合いを入れるように拳を握る。
「いよいよだね!」
リノも静かに頷く。
「うん。」
ミカはリノの手を握った。
「約束、忘れないでね。」
「ちゃんと帰ってくること。」
リノは力強く頷く。
「約束する。」
ルルが笑う。
「次は、楽しい話を聞かせてね。」
ノアも静かに言う。
「焦らず、周りをよく見ること。」
「一人で抱え込むな。」
「うん。」
リノは笑った。
「ありがとう。」
最後にセナが一歩前へ出る。
「行ってらっしゃい。」
その声は穏やかで優しかった。
リノも笑顔で答える。
「行ってきます。」
ラピスが杖を掲げる。
足元に星の魔法陣が広がる。
光がリノとひまりを包み込んだ。
その光が消える直前。
セナは胸元で、小さく星形のチャームを握りしめる。
「……まだ。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
「今は、まだ。」
淡い光は、そっと手の中へ消えていった。




