第47話 キャンディ組織
黒いノイズが消滅したあとも、星兎の里には重苦しい空気が流れていた。
空を覆っていた赤い警報表示は消えていたが、結界を修復する星兎たちが慌ただしく行き来している。
禁止区域の石門には、新たに刻まれた大きな亀裂。
先ほどの戦いの激しさを物語っていた。
リノはその門を見つめながら、小さく息を吐く。
「間に合って……よかった。」
「うん。」
ひまりも静かに頷く。
「あと少し遅かったら、門が壊れてたかもしれないね。」
るりはポルルにもたれかかりながら苦笑した。
「今日はいっぱい魔法使ったぁ……。」
「よく頑張ったね。」
ポルルは優しく頭を撫でる。
その時だった。
ラピスがゆっくり振り返る。
その表情は、里へ来た時とは別人のように険しかった。
「皆さん。」
「長老会へ来てください。」
「……?」
リノたちは顔を見合わせる。
「今回の件は、皆さんにも知っていただく必要があります。」
その一言だけで、事態の深刻さが伝わってきた。
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星兎長老会
里の中央。
大きな円形の建物。
普段は誰も入れない場所らしい。
扉が静かに開く。
中には十数匹の年老いた星兎たちが集まっていた。
皆、表情が硬い。
ラピスが中央へ歩く。
黒いキャンディは銀色の結界に包まれ、台座の上へ置かれていた。
一匹の長老が震える声で呟く。
「……間違いありません。」
「黒いキャンディです。」
別の長老が目を閉じる。
「また現れたのですね……。」
部屋が静まり返る。
ひまりが我慢できず尋ねた。
「また……って?」
ラピスはゆっくり答える。
「昔にも、一度ありました。」
「星兎の里が襲われた事件です。」
「その時も……。」
ラピスは黒いキャンディを見る。
「この黒いキャンディが残されていました。」
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商品
リノは恐る恐る聞く。
「これって……天城先生のキャンディなんですか?」
ラピスは首を横に振る。
「違います。」
即答だった。
「天城が作るキャンディとは根本から違います。」
るりが首を傾げる。
「どう違うの?」
ラピスは静かに説明を始めた。
「天城は、人の苦しみを止めるためにキャンディを使いました。」
「ですが、このキャンディは違います。」
ラピスの瞳が鋭くなる。
「これは。」
「売るために作られたキャンディです。」
「……え?」
リノたちは息を呑む。
長老の一人が続きを話す。
「人の心。」
「悲しみ。」
「絶望。」
「願い。」
「それらを無理やり取り出し。」
「価値を付け。」
「商品として売る。」
ひまりの拳が震える。
「そんなこと……。」
るりは信じられないという顔をする。
「人の気持ちを売るの……?」
「はい。」
ラピスは苦しそうに頷く。
「彼らは感情を”資源”としか見ていません。」
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天城という男
リノは静かに口を開く。
「でも……。」
「天城先生もキャンディを使っていました。」
「なら……。」
「同じなんじゃ……。」
部屋が静かになる。
ラピスはしばらく黙っていた。
そして。
「違います。」
「天城も間違えました。」
「ですが。」
「少女たちを商品として扱ったことは、一度もありません。」
リノは目を見開く。
ラピスは続けた。
「昔。」
「組織は天城へ協力を求めました。」
「天城なら、より質の高いキャンディを作れると考えたのです。」
「ですが。」
「彼は拒否しました。」
「『救いを売り物にするつもりはない』」
「そう言って。」
リノの胸が少しだけ苦しくなる。
敵。
それでも。
天城先生は。
最後まで守ろうとしていたものがあった。
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禁止区域
ラピスは立ち上がる。
「皆さん。」
「見ていただきたい場所があります。」
石門の前。
長老たちが魔法陣を展開する。
何重もの鍵。
封印。
ゆっくり。
門が開いていく。
ゴゴゴゴ……
冷たい空気が流れ出した。
中は廃墟だった。
崩れた研究施設。
砕けたクリスタル。
折れた柱。
壁には古い魔法陣。
るりが震える。
「ここ……。」
「昔。」
ラピスが答える。
「キャンディ研究施設でした。」
全員が息を呑む。
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声
リノだけ。
灰色リボンが淡く光る。
「……?」
誰にも聞こえない。
小さな声。
「助けて……。」
リノは振り返る。
誰もいない。
もう一度。
「まだ……終わってない。」
「誰!?」
ひまりが驚く。
「え?」
「リノちゃん?」
「今……聞こえなかった?」
全員首を横に振る。
ラピスだけが。
リノを見つめていた。
「灰色リボン……。」
小さく呟く。
―――
一方その頃
暗い部屋。
棚いっぱいに並ぶ黒いキャンディ。
値札。
番号。
品質。
まるで商品だった。
ローブの人物が座っている。
部下が頭を下げた。
「試作品No.7。」
「失敗しました。」
「星兎の里の結界は破れませんでした。」
ローブの人物は笑う。
「問題ない。」
机の上には資料。
魔法少女一覧。
最後のページ。
灰色リボン代表候補 リノ
その名前を指でなぞる。
「面白い。」
「灰色とは。」
「まだ誰も味わったことのない感情。」
ゆっくり立ち上がる。
窓の外には夜空。
黒いキャンディを一粒持ち上げる。
「最高の商品になる。」
その言葉とともに、部屋の奥で無数の黒いキャンディが妖しく輝いた。




