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リボンが黒く染まるまで 〜救うほど闇に近づく魔法少女になってしまいました…!〜  作者: ぽころっと
Chapter 4 心に値段はつけられない

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第45話 星兎の里

「星兎の里に行く。」


そう決めたあとも、ミミルはずっと落ち着かなかった。


公園のベンチの上で、行ったり来たり。


右へぴょこぴょこ。


左へぴょこぴょこ。


また右へぴょこぴょこ。


「ミミル、目が回るよ……。」


リノが苦笑すると、ミミルはぴたりと止まった。


「ご、ごめん。」


けれど、耳は不安そうに揺れている。


リノはそっとミミルの隣に座った。


「怖い?」


ミミルはすぐには答えなかった。


少しだけ空を見上げて、それから小さく頷く。


「……怖い。」


「星兎の里に行くの、久しぶりなんだ。」


「昔はね、楽しい場所だった。」


「星屑の草原があって、小さい丸い家がいっぱいあって、夜になるとみんなのしっぽの星がぴかぴか光るんだ。」


話しながら、ミミルの表情が少しだけ柔らかくなる。


けれど、それはすぐに曇った。


「でも……今はちょっと怖い。」


「どうして?」


「だって。」


ミミルは両手をぎゅっと握る。


「ボクの仲間の中に、先生と同じ考えの星兎がいるかもしれないんでしょ?」


「魔法少女を守るために、眠らせた方がいいって。」


「もし本当だったら……ボク、何を信じればいいのか分からないよ。」


リノは何も言わなかった。


星兎は、魔法少女の隣にいる存在。


ミミルはずっと、そう信じてきた。


リノもそうだった。


だからこそ、ミミルの不安が痛いほど伝わってきた。


「ミミル。」


リノはそっと手を伸ばす。


ミミルはその手に、小さな身体を預けた。


「私も怖いよ。」


「……リノも?」


「うん。」


リノは胸元の灰色リボンに触れた。


「星兎のことも、キャンディのことも、先生のことも。」


「まだ分からないことばっかり。」


「でも、知らないまま会議に行く方がもっと怖い。」


ミミルは顔を上げる。


「だから、行きたい。」


リノはまっすぐに言った。


「ミミルたちのことも、ちゃんと知りたい。」


「星兎が何を考えているのか、自分の目で見たい。」


ミミルはじっとリノを見つめた。


そして、小さく笑った。


「リノは……強くなったね。」


「そうかな。」


「うん。」


ミミルは少しだけ胸を張る。


「でも、無理したらボクが怒るからね。」


「うん。怒って。」


「ほんとに怒るよ?」


「うん。」


「すっごく怒るよ?」


「うん。」


リノが笑うと、ミミルも少しだけ笑った。



「お待たせしました。」


その声に振り返ると、ひまりの肩に乗ったピリカがいた。


白い身体。


オレンジがかった赤い耳。


星のしっぽが、淡く光っている。


ひまりは大きく手を振る。


「リノちゃん!ミミル!」


「ひまり。」


「ピリカも来てくれたんだね。」


ピリカは落ち着いた声で頷いた。


「星兎の里へ向かうなら、私も同行します。」


「里のことは、ポルルだけでなく私からも説明できます。」


ミミルが少し緊張したように耳を立てた。


「ピリカ……。」


ピリカはミミルを見る。


その表情はいつも通り冷静だった。


けれど、声は少し優しい。


「ミミル。不安なのは分かります。」


「でも、逃げていても答えは出ません。」


ミミルは小さく頷く。


「……うん。」


ピリカはリノたちへ向き直った。


「星兎の里は、星の庭園とは違います。」


「天城先生の場所ではありません。」


「私たち星兎が生まれ、魔法少女との契約を学ぶ場所です。」


リノは思わず聞き返す。


「契約を……学ぶ?」


「はい。」


「星兎は、生まれてすぐに魔法少女の相棒になるわけではありません。」


「魔力の扱い方、契約の結び方、魔法少女の心を支える方法。」


「そういったものを里で学びます。」


ひまりが少し驚く。


「ピリカたちにも学校みたいなのがあるんだ?」


「学校とは少し違いますが、近いかもしれません。」


ミミルがぼそっと言う。


「ボクは座学がちょっと苦手だった……。」


ピリカがじっと見る。


「ちょっと?」


「……けっこう。」


「正直でよろしい。」


リノは思わず笑ってしまった。


少しだけ空気が軽くなる。



「準備できたよ〜!」


明るい声が聞こえた。


雨宮るりが、水たまりの上を跳ねるように歩いてくる。


その隣には、ポルル。


るりは小さな袋を大事そうに抱えていた。


「おやつも持ったよ〜!」


ポルルがすぐに言う。


「るり、これは遠足じゃないよ。」


「でも、おやつは大事だよ?」


「それは否定しない。」


ポルルが真面目な顔で答える。


ミミルが目を丸くした。


「否定しないんだ!?」


「長い移動になる可能性があるからね。」


ポルルは落ち着いた声で言う。


「糖分は大事だよ。」


るりは嬉しそうに袋を掲げた。


「ほら〜、ポルルもこう言ってる!」


ひまりが苦笑する。


「るりちゃん、ほんと変わらないね。」


「えへへ。」


るりはにこっと笑う。


「ひまりちゃんも変わらないよ〜。」


「すぐ心配して、すぐ燃えるところ。」


「それ褒めてる?」


「うん!」


「じゃあいいけど……。」


ルルとノアも合流した。


ルルは空を見上げる。


「ここから星兎の里へ行けるの?」


ポルルは頷く。


「普通の道では行けない。」


「星兎の里へ入るには、星兎と魔法少女の絆が必要なんだ。」


ピリカが続ける。


「契約の光を道しるべにします。」


「星兎のしっぽの星と、魔法少女のリボン。」


「その光を重ねることで、入口が開きます。」


リノはミミルを見る。


「私たちにもできる?」


ミミルは一瞬だけ不安そうにした。


けれど、すぐに頷く。


「できるよ。」


「だって、ボクたちはもう一回結んだんだから。」


リノの胸が温かくなる。


「うん。」



公園の中央に、三組が並んだ。


リノとミミル。


ひまりとピリカ。


るりとポルル。


ルルとノアは少し離れて見守る。


ミミルの星のしっぽが、淡い光を灯した。


リノの灰色リボンも、それに応えるように輝き始める。


ひまりの赤いリボン。


ピリカの赤い星。


るりの青いリボン。


ポルルの水色の星。


それぞれの光が、空中でゆっくり重なっていく。


赤。


青。


灰色。


星の光。


リノの灰色リボンが、ふわりと揺れた。


その瞬間。


周囲の色が、少しだけリノのリボンへ吸い込まれるように見えた。


赤い光も。


青い光も。


星の光も。


灰色の中に混ざり、でも消えることはない。


白にも黒にもならない。


すべての色を静かに結んだまま、リノのリボンは優しく輝いていた。


ポルルが小さく目を見開く。


「灰色リボン……。」


「やっぱり不思議だね。」


リノは少し不安そうに自分のリボンを見る。


「変……かな。」


ポルルは首を横へ振った。


「変じゃないよ。」


「ただ、今まで見たことがないだけ。」


ピリカも静かに頷く。


「未知であることと、危険であることは同じではありません。」


ミミルはすぐに言う。


「そうだよ!」


「リノのリボンはリノのリボンだよ!」


リノは少しだけ笑った。


「ありがとう。」


光が強くなる。


公園の空気が揺れる。


足元に、星の輪が広がった。


やがて目の前に、光でできた小さな門が現れる。


門の向こうには、夜空のような道が続いていた。


星の川。


無数の小さな星が流れる、静かな道。


るりが嬉しそうに手を叩く。


「開いた〜!」


ポルルが頷く。


「行こう。」


「道は長くない。」


「でも、途中で気を抜かないで。」


ひまりが拳を握る。


「うん!」


リノも一歩前へ出る。


その足は、もう震えていなかった。



星の川の道は、不思議な場所だった。


上下の感覚が曖昧で、歩いているのに、空を渡っているような気がする。


足元には星が流れ、遠くには小さな銀色の橋がいくつも浮かんでいる。


リノは静かに歩きながら、ふと自分の足元を見た。


きらり。


また、星の庭園に似た光が揺れた。


今度は、リノ自身にもはっきり見えた。


「……また。」


ミミルが不安そうに耳を伏せる。


「リノ、足元……。」


「うん。」


リノは立ち止まる。


灰色の光とは違う。


あれは、天城のキャンディを食べた時に見た、夜空色の光だった。


ポルルも表情を曇らせる。


「天城先生のキャンディの影響かもしれない。」


ひまりがリノの隣に立つ。


「リノちゃん……。」


リノは足元の光を見つめた。


怖くないと言えば嘘になる。


自分の足は戻った。


けれど、その回復には天城の力が関わっている。


それは消えない事実だった。


「でも。」


リノはゆっくり顔を上げる。


「この足で歩くって決めたのは、私だから。」


ひまりが小さく笑う。


「うん。」


「リノちゃんが選んだ足だよ。」


ミミルも頷く。


「先生のものじゃない。」


リノは胸元のリボンに触れた。


「うん。」


「この足で、私は星兎の里へ行く。」


「ちゃんと知るために。」


「ちゃんと選ぶために。」


その言葉に、星の川が少しだけ明るくなった気がした。



道の終わりに、ひときわ大きな星が浮かんでいた。


ピリカが足を止める。


「着きます。」


ミミルの耳がぴんと立つ。


「……。」


リノはミミルを見る。


「大丈夫?」


「うん。」


ミミルは一度だけ深く息を吸った。


「大丈夫。」


「ボク、逃げない。」


光が広がる。


視界が白く染まる。


次の瞬間、リノたちは広い草原に立っていた。


「……わぁ。」


リノは思わず声を漏らす。


そこは、星の光でできたような村だった。


空は夜なのに明るい。


地面には、星屑のような草が一面に広がっている。


小さな丸い家が、ぽこぽこと並んでいた。


屋根には星型の飾り。


窓からは柔らかな光。


空中には細い橋が浮かび、星兎たちが軽やかに渡っている。


遠くには、透き通った鐘の塔。


風が吹くたび、ちりん、ちりんと星の音が鳴った。


るりが両手を広げる。


「星兎の里、到着〜!」


ミミルは小さく呟いた。


「……ただいま。」


その声は、懐かしさと不安で少し震えていた。


けれど。


すぐに歓迎の声が返ってくることはなかった。


近くにいた星兎たちが、一匹、また一匹と足を止める。


視線がリノへ向く。


正確には、リノの胸元の灰色リボンへ。


「……灰色?」


「人間の魔法少女……?」


「ミミルが連れてきたの?」


小さな囁きが広がっていく。


リノは思わず一歩下がりそうになった。


けれど、ミミルがそっと前に出た。


「この子はリノ。」


「ボクの魔法少女だよ。」


その声は震えていた。


でも、ちゃんと前を向いていた。


ピリカも隣へ並ぶ。


「そして、灰色リボン代表候補です。」


ざわめきが大きくなる。


ひまりはリノの横に立ち、るりはにこにこしているようで、目だけは周囲を見ていた。


ポルルも静かに言う。


「私たちは、話を聞きに来ました。」


「星兎の中で何が起きているのか。」


「天城先生と関わっている星兎がいるのか。」


その言葉に、周囲の空気がぴんと張り詰めた。


すると、里の奥からゆっくりと一匹の星兎が歩いてきた。


白銀の毛並み。


長い耳。


星のしっぽは、青白く静かに輝いている。


他の星兎たちが自然と道を開けた。


ミミルの耳がぴたりと止まる。


「ラピス様……。」


その星兎――ラピスは、ミミルを見つめた。


「ミミル。」


「戻りましたか。」


「……はい。」


ラピスの視線が、リノへ移る。


リノは緊張しながらも、背筋を伸ばした。


「あなたが、灰色リボンの魔法少女ですね。」


「……はい。」


「リノです。」


ラピスは静かに頷いた。


「歓迎します。」


その言葉に、リノの表情が少しだけ和らぐ。


けれど、ラピスは続けた。


「ただし。」


「あなたの存在を、すべての星兎が受け入れているわけではありません。」


風が吹いた。


星屑の草原が、ざわりと揺れる。


ミミルがリノの前に立つ。


ひまりが拳を握る。


るりの青いリボンが、ほんの少しだけ揺れた。


ラピスは静かな声で告げる。


「灰色リボンの魔法少女。」


「そして、天城のキャンディで歩き出した少女。」


「あなたが何を選ぶのか。」


「この里も、見極めなければなりません。」


リノは胸元のリボンを握った。


怖い。


でも、逃げない。


「分かりました。」


リノはまっすぐラピスを見る。


「私も、ちゃんと知りたいです。」


「星兎が何を思っているのか。」


「ミミルたちの里で、何が起きているのか。」


「だから……話を聞かせてください。」


ラピスはしばらくリノを見つめていた。


やがて、ゆっくりと目を閉じる。


「よいでしょう。」


「星兎の里へ、正式に迎え入れます。」


鐘の塔が、ちりんと鳴った。


けれどその音は、歓迎の響きというより。


これから始まる問いかけの合図のように聞こえた

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