第40話⑥ もう一度、一緒に。
未来へ。
星の庭園を包む光が、ゆっくりと収まっていく。
リノの胸元には、新たな契約の証が静かに輝いていた。
以前よりも優しく、温かな光。
ミミルは嬉しそうに笑う。
「やったぁ!」
「リノ!また一緒だね!」
「うん。」
リノも涙を拭いながら笑う。
「もう離れないよ。」
「もちろん!」
ミミルは胸を張る。
「今度はもっともっと強くなる!」
その様子を見たひまりが、大きく笑った。
「よかったぁ!」
ルルも優しく微笑む。
「これで、本当に全員そろったね。」
ノアは剣を握り直す。
「でも。」
「まだ終わってない。」
全員の視線が天城たちへ向く。
天城は穏やかな表情のまま、小さく頷いた。
「そうですね。」
「続きを始めましょう。」
スミレがニヤリと笑う。
「先生!」
「今度こそ決めちゃう?」
「ええ。」
「ですが。」
「焦る必要はありません。」
コトも静かに構える。
メルはキャンディを指先でくるくる回していた。
レイナだけは、じっとリノを見つめている。
その視線に、迷いが見えた。
「レイナ……。」
リノが小さく名前を呼ぶ。
レイナは答えない。
ただ静かに目を閉じた。
その瞬間。
「行くよ!」
ひまりが飛び出した。
炎が一直線に走る。
「リボン・ブレイズ!」
スミレが迎え撃つ。
「面白いじゃん!」
二人の攻撃が激しくぶつかる。
その横をルルが駆け抜ける。
「今!」
コトがリボンを放つ。
光と光が夜空で交差する。
ノアはレイナへ向かう。
「レイナ。」
「まだ引き返せる。」
レイナは悲しそうに笑う。
「……ごめんねぇ。」
「私は。」
「先生を裏切れない。」
「じゃあ。」
ノアは静かに構える。
「止めるしかないね。」
二人の武器がぶつかり合う。
その頃。
リノは車椅子のタイヤを強く握った。
(私も。)
(もう逃げない。)
ミミルが肩へ乗る。
「リノ!」
「ボクたちも!」
「うん!」
リノは大きく息を吸う。
胸元のリボンが輝く。
光が車椅子を包み込んだ。
「みんな!」
「援護する!」
無数の光のリボンが夜空へ舞い上がる。
ひまりが驚く。
「すごい!」
以前よりも柔らかい光。
それは敵を傷付ける力ではなく、仲間を支える光だった。
ルルのリボンへ重なる。
ノアの剣を包む。
ひまりの炎がさらに大きく燃え上がる。
「力が……!」
「増えてる!」
ミミルは得意げに笑った。
「これが!」
「リノの本当の力だよ!」
天城はその光景を見つめ、小さく目を細める。
「……なるほど。」
「それが。」
「あなたの答えですか。」
リノはまっすぐ天城を見る。
「先生。」
「私は。」
「苦しい未来でも。」
「みんなと歩いていきたい。」
その言葉に、ひまりたちは笑顔になる。
天城も静かに微笑んだ。
「そうですか。」
戦いは、少しずつ天城たちを押し始めていた。
スミレは肩で息をする。
「先生!」
「これ、結構キツいんだけど!」
メルも苦笑する。
「キャンディも減ってきたよ〜。」
コトは静かに状況を見つめる。
「先生。」
「撤退も考えるべきなの。」
レイナはリノを見つめたまま、小さく呟く。
「……リノちゃん。」
天城は静かに空を見上げた。
そして。
小さく微笑む。
「皆さん。」
「今日はここまでにしましょう。」
「えっ?」
スミレが目を丸くする。
「まだ戦えるよ!?」
メルも首を傾げた。
「帰るの〜?」
コトはすぐに頷く。
「先生がそう言うなら。」
レイナも静かに武器を下ろした。
「……分かった。」
ひまりは驚く。
「逃がさない!」
炎をまとって飛び出そうとした、その時――。
リノが静かに声を上げた。
「待って。」
全員の動きが止まる。
リノは天城を見つめた。
「先生。」
「一つだけ聞いてもいい?」
天城は足を止める。
「はい。」
「どうして。」
「どうして、あんなに私を助けようとしてくれたの?」
庭園に静寂が訪れる。
天城は少しだけ考え、穏やかに答えた。
「あなたは。」
短く息を吐く。
「昔の私に、とてもよく似ていたからです。」
それだけだった。
理由も。
過去も。
何も語らない。
でも、その一言には本物の想いが込められていた。
リノは何も言えなかった。
天城は静かにポケットへ手を入れる。
そこから取り出したのは、一粒のキャンディ。
夜空を閉じ込めたような、透き通る青い光を宿していた。
彼はゆっくりとリノの前へ歩み寄る。
「受け取ってください。」
リノは戸惑う。
「……これは?」
天城は優しく微笑んだ。
「安心してください。」
「これは誰かの心から作られたものではありません。」
「私自身が作った、小さな奇跡です。」
リノはそっと受け取る。
キャンディは手のひらで、星のように優しく瞬いていた。
天城はその光を見つめながら言う。
「あなたは私とは違う未来を選びました。」
「でしたら。」
「最後まで歩き続けてください。」
「その未来を、いつか私にも見せてください。」
リノはキャンディを胸の前で大切に握りしめる。
「……ありがとう。」
天城は静かに頷いた。
そして少しだけ口元を緩める。
「次は。」
「勝ちますからね。」
リノも、自然と笑みを返す。
「負けません。」
二人の視線が交わる。
敵と味方。
それでも互いを認め合った、初めての瞬間だった。
天城は踵を返す。
星の扉が静かに開く。
「皆さん。」
「帰りましょう。」
「はーい。」
「了解なの。」
「またねぇ。」
レイナだけが振り返り、小さく笑った。
「リノちゃん。」
「今度は、ちゃんと迎えに行くねぇ。」
そう言い残し、四人は天城の後を追う。
ひまりは思わず一歩踏み出した。
「待ちなさい!」
しかし、その腕をリノがそっとつかむ。
「ひまり。」
「もういい。」
「でも!」
リノは星の扉を見つめながら、穏やかに微笑んだ。
「先生とは……。」
「きっと、また会える気がする。」
その言葉に応えるように。
扉の向こうから、天城の優しい声だけが届いた。
「ええ。」
「また、お会いしましょう。」
星の扉は静かに閉じる。
夜空には、穏やかな風だけが残っていた。
Chapter 3 完




