第40話④ 心から生まれる力
夜空を照らす星々が、一瞬だけ強く輝いた。
「変身!」
ひまりの赤いリボンが光を放つ。
炎が身体を包み込み、真紅のドレスが夜風に揺れる。
「レッド・リボン・ドレスアップ!」
続いてルルとノアも変身する。
三人の魔法少女がリノの前へ並んだ。
リノはその背中を見つめる。
(みんな……。)
(来てくれたんだ……。)
ピリカがリノの肩へ飛び乗る。
「リノさん。」
「もう一人じゃないです。」
その言葉だけで、涙がまた溢れそうになる。
一方、スミレは大きく伸びをした。
「じゃあ、派手にいこうか!」
紫色のリボンが舞い上がる。
「来るよ!」
ひまりが叫ぶ。
次の瞬間、スミレの姿が消えた。
「速い!」
ルルがリボンを放つ。
しかし、その横をすり抜ける。
「甘いって!」
スミレの蹴りがルルへ迫る。
「っ!」
ノアが割って入り、剣で受け止める。
ギィン!!
激しい火花が散る。
「ナイス!」
ひまりは地面を蹴った。
拳へ炎が集まる。
「はあぁぁぁっ!」
炎をまとった拳がスミレへ向かう。
スミレも笑う。
「いいじゃん!」
激突。
轟音。
熱風が庭園を吹き抜ける。
二人は同時に後ろへ飛び退いた。
「本気なんだね。」
「もちろん!」
ひまりは構える。
「絶対に負けない!」
その頃。
ルルとコトも向き合っていた。
コトは武器を構えない。
ただ静かに立っている。
「どうして戦うの。」
ルルが問いかける。
コトは少し考えてから答えた。
「悲しい人を減らしたいだけなの。」
「そのために?」
「うん。」
「泣かなくていい世界なら。」
「それが一番だから。」
ルルは首を振る。
「違う。」
「泣くことも。」
「笑うことも。」
「全部あって人生なんだよ。」
コトは静かに目を閉じた。
「……やっぱり。」
「分かり合えないの。」
二人のリボンがぶつかる。
光が夜空へ弾けた。
その少し離れた場所。
ノアは天城の前へ立つ。
天城は武器を持たない。
ただ両手を前で重ね、穏やかな表情を浮かべている。
「先生。」
ノアが静かに口を開く。
「あなたは戦わないの?」
天城は微笑んだ。
「私が戦えば。」
「この子たちは、私の考えではなく力に従ってしまいます。」
「それでは意味がありません。」
ノアは小さく笑う。
「最後まで先生らしいね。」
天城も頷いた。
「あなたも昔は。」
「こちら側へ来ることを望んでいました。」
ノアは少しだけ目を伏せる。
確かに。
昔の自分なら。
この優しさに救われたかもしれない。
「……そうだね。」
「先生の言いたいことは分かる。」
「苦しい子を救いたい。」
「その気持ちは、本物。」
天城は静かに頷く。
「ありがとうございます。」
ノアはゆっくりと剣を構えた。
「でも。」
「私は違う答えを見つけた。」
「傷ついて。」
「泣いて。」
「立ち上がるからこそ、人は強くなれる。」
「リノも。」
「きっと、自分の力で前を向ける。」
天城は優しく目を細める。
「そう信じているのですね。」
「うん。」
「だから私は。」
「リノの未来を守る。」
その瞬間――
「ひまりぃ!!」
スミレの叫び声が響く。
ひまりは大きく跳び上がり、夜空で両手を重ねた。
炎が渦を巻き、一本の巨大な赤いリボンとなって空を染める。
「これで決める!」
「フレイム・リボン・ブレイク!!」
轟ッ!!
真紅の炎が一直線にスミレへ叩きつけられた。
「なっ……!」
避けきれない。
爆発。
閃光。
衝撃波が庭園全体を揺らした。
煙が晴れる。
スミレは膝をついていた。
そして――
右腕が肩口から消えていた。
光の粒となって、切り離された腕が地面へ転がる。
リノが息を呑む。
「そんな……!」
ひまりも目を見開いた。
「わ、私……。」
「やりすぎ……。」
しかし。
スミレは苦しそうに笑った。
「メル……お願い。」
「はいはい。」
メルはポケットから、色とりどりに輝く小さなキャンディを一粒取り出す。
それをスミレへ放り投げた。
「ありがと。」
スミレは迷うことなく口へ入れる。
ぱきっ。
小さな音。
次の瞬間。
キャンディが眩しい光へ変わった。
黄金色の粒子が肩口へ集まり、失われた右腕を包み込む。
骨ではない。
血でもない。
光そのものが腕の形を作り始める。
指先。
手のひら。
腕。
肩。
数秒後。
まるで最初から何事もなかったかのように、右腕は完全に再生していた。
ひまりは思わず後ずさる。
「うそ……。」
ルルも驚きを隠せない。
「再生……した?」
ノアは静かに天城を見る。
天城はいつもの穏やかな笑顔のまま答えた。
「キャンディは。」
「誰かを傷つけるためだけの力ではありません。」
「心から生まれた願いは、癒やしの力にもなります。」
「だからこそ、私たちは大切に扱っているのです。」
ひまりはぎゅっと拳を握る。
(こんなの……。)
(どうやって勝てばいいの……。)
その様子を見ていたリノの胸にも、不安が大きく広がっていくのだった。




