第40話③ 守りたいもの
「リノちゃーーーん!!」
ひまりは涙を浮かべながら一直線に駆ける。
「ひまり……!」
リノも思わず手を伸ばける。
「来ちゃダメ!」
「危ない!」
それでも、ひまりは止まらない。
「絶対に止まらない!」
「もう、大切な人を失いたくないから!!」
二人の距離が縮まる。
あと少し。
あと数歩で届く——。
その時だった。
「……皆さん。」
静かな声が庭園へ響く。
天城がゆっくり振り返る。
「お願いします。」
その一言だけ。
命令でも怒鳴り声でもない。
まるで「始めましょう」とでも言うような穏やかな口調だった。
次の瞬間。
木々の影から一人の少女が姿を現す。
「先生、お待たせしました。」
一人の少女がゆっくりと歩いてくる。
風に揺れる長い髪。
優しく微笑む表情。
見慣れた制服。
「……レイナ。」
リノの瞳が揺れる。
「え……。」
「レイナ?」
レイナは立ち止まり、小さく笑った。
その笑顔は学校で見せるものと変わらない。
「やっと会えたねぇ。」
「リノちゃん。」
リノは言葉を失う。
「どうして……。」
「なんで……そこにいるの?」
レイナは少しだけ目を伏せる。
「ごめんねぇ。」
「ずっと言えなかった。」
「でも。」
「もう隠せないもんね。」
リノは首を振る。
「嘘だよね……?」
「レイナは……。」
「ずっと私を助けてくれて……。」
「学校でも……。」
「病院でも……。」
「一緒にいてくれたじゃん……。」
レイナは寂しそうに笑う。
「うん。」
「全部、本当。」
「リノちゃんが心配だった。」
「苦しそうだった。」
「泣いてるのも知ってた。」
一歩。
また一歩。
ゆっくりとリノへ近付く。
「だからねぇ。」
「もう頑張らなくていいって思ったの。」
「先生なら。」
「リノちゃんを幸せにしてくれる。」
リノは後ずさる。
「違う……。」
「そんなの違う!」
「レイナ!」
「一緒に帰ろう!」
レイナは首を横へ振った。
「帰る?」
「どこへ?」
「また苦しい学校へ?」
「また泣く毎日へ?」
「また、自分を責め続ける毎日へ?」
一つひとつの言葉が、リノの胸へ突き刺さる。
「違う……。」
「違うよ……。」
「本当に?」
レイナは優しく問いかける。
「リノちゃん。」
「昨日。」
「一人で泣いてたよねぇ。」
「一昨日も。」
「その前も。」
「『疲れた』って言ってた。」
リノの肩が震える。
「もう。」
「十分なんだよ。」
「先生は悪い人じゃない。」
「だから。」
「こっちへおいで。」
レイナはそっと手を差し伸べた。
リノはその手を見つめる。
学校で何度も支えてくれた手。
励ましてくれた手。
笑ってくれた手。
だからこそ。
胸が苦しくなる。
「レイナ……。」
その時。
「リノちゃんから離れて!!」
ひまりが二人の間へ飛び込む。
赤い炎が弾ける。
レイナは軽く後ろへ飛び退いた。
「ひまりちゃん。」
「邪魔しないでぇ。」
「これは。」
「リノちゃんのためなんだから。」
ひまりはリノを背中へかばう。
「違う!!」
「リノちゃんは物じゃない!」
「自分で未来を選べる!」
ルルもリボンを構える。
「ここから先には行かせない。」
ノアも静かに前へ出る。
「悪いけど。」
「今回は引けない。」
コトは静かに一歩前へ。
「先生。」
「始めてもいいの?」
天城は小さく頷く。
「ええ。」
「ですが。」
「命を奪うことだけは、決してしてはいけません。」
「皆さんも。」
「この子たちも。」
「守るべき命です。」
コトも、メルも、スミレも素直に頷いた。
「はい。」
「分かりました。」
その様子を見て、ひまりは驚く。
(敵なのに……。)
(命は奪わない……?)
一瞬の静寂。
そして次の瞬間。
スミレがニヤリと笑う。
「じゃあ。」
「始めようか。」
炎が舞う。
光が走る。
リボンが宙を裂く。




