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リボンが黒く染まるまで 〜救うほど闇に近づく魔法少女になってしまいました…!〜  作者: ぽころっと
Chapter 1 白いリボンが黒く染まるまで

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18.5話 七夕特別ver. 星に結ぶ願い事

「七夕笹パニック」

※この話は本編と関係がない話です。


 放課後の教室に、一本の笹が置かれていた。


 机の上には、色とりどりの短冊。

 折り紙の星飾り。

 細いこより。

 それから、なぜかチュロスの袋。


「七夕近いし、みんなで願いごと書かない?」


 ミカがにこにこしながら言った。


 リノは笹を見て、少しだけ目を細める。


 七夕。


 願いごとを短冊に書いて、笹に結ぶ日。


 それはかわいくて、きれいで、少しだけ特別な響きがあった。


 でも、今のリノには「願い」という言葉が、前より少し重く感じられる。


 願いは、誰かを動かす。

 時には、誰かを救う。

 でも、しまい込んだ願いは、ノイズになることもある。


「願いごとって、ノイズになるのかな」


 リノがぽつりと言うと、机の上に座っていたミミルが耳を揺らした。


「願いそのものは、悪いものじゃないよ」


 先に答えたのは、窓際に立っていたルルだった。


 夕方の光が、星の髪飾りに淡く反射している。


「言えないまま、しまい込んで、誰にも届かなくなった時。願いは少しずつ形を変えることがある」


「形を変える……」


「でも、短冊に書くみたいに、誰かに見える形にできるなら」


 ルルは笹を見た。


「それは、ノイズになる前の小さな結び目かもしれない」


 ひまりが、赤い短冊を両手で持って目をきらきらさせる。


「じゃあ、結んだらセーフってこと?」


 ピリカが肩の上で言う。


「そんな単純じゃないけど、ひまりが言うとちょっとかわいい」


「えへへ、かわいいって言われた」


「褒めてるようで、ちょっと違うかも」


「え、うそでしょ」


 セナは短冊を一枚手に取って、真面目な顔で眺めていた。


「願いごとは、具体的な方が叶いやすいのでしょうか」


 ミカが笑う。


「そこから考えるんだ」


「曖昧な目標は達成の可否が判断できません」


「七夕にまで達成確認するの、セナちゃんらしいね」


 いろはは水色の短冊と桃色の短冊を並べて悩んでいる。


「うーん、どっちが写真映えするかな」


「願いごとより先に映えなんだ」


 ミカが言うと、いろはは真剣に頷いた。


「願いごとは見た目も大事。かわいく結ばれてた方が、星にも見つけてもらいやすそうじゃない?」


「それはちょっと分かるかも」


 ひまりがうんうん頷く。


 ノアは教室の後ろで腕を組み、壁にもたれていた。


「私は書かない」


 ひまりがすぐに振り返る。


「えー、ノア先輩も書こうよ。七夕だよ?」


「願いごとなんて書いても変わらない」


「変わらなくても、書くとちょっと分かることあるよ」


 ミカが優しく言う。


 ノアは視線をそらした。


「別に、ない」


「別にって言う人、だいたいあるんだよね」


 ひまりが小声で言う。


「聞こえてる」


「え、うそでしょ」


「聞こえる距離で言ってるから」


 そんなやり取りをしている間に、ミカは短冊を配り始めた。


「はい、好きな色選んでね!」


「わたし、赤!」


 ひまりがすぐに赤い短冊を取る。


「やっぱこれでしょ」


 ピリカも赤い短冊に飛びつく。


「わたしも赤!」


「ピリカは小さい短冊ね。大きいのはわたし」


「えー、ずるい〜」


「だってピリカ小さいじゃん」


「小さい星兎にも大きい願いはあるんだよ!」


「じゃあ、半分こ?」


「短冊を半分にしない!」


 リノは白い短冊を手に取った。


 何を書こう。


 みんなが幸せになりますように。

 誰も傷つきませんように。


 そう書きかけて、手が止まる。


 大きすぎる願いは、どこか怖い。


 全部を抱えようとする自分が、またひとりで走ってしまいそうで。


 リノは少し考えてから、ゆっくり書いた。


『大丈夫じゃない時に、大丈夫じゃないって言えますように』


 書き終えた瞬間、胸が少しだけ軽くなる。


 ミカは隣で黄色い短冊に書いていた。


『みんなでまた楽しいことができますように』


 その下に、小さく付け足す。


『リノちゃんがひとりでがんばりすぎませんように』


「ミカちゃん、それ……」


「あ、見ちゃった?」


 ミカは照れたように笑う。


「でも本音だから」


 リノは少しだけ頬を赤くした。


「ありがとう」


 セナの短冊は、やたら文字が小さかった。


 ひまりが横から覗き込む。


「まじめちゃん、短冊って作文も書いていいの?」


「作文ではありません」


 セナの短冊にはこう書かれていた。


『予定外の事態が発生した場合でも冷静に状況を整理し、必要な支援を適切に求められますように』


 ピリカがぱちぱち瞬きする。


「願いごと、長い」


 ミカが笑いをこらえる。


「セナちゃん、もっと短くてもいいんじゃない?」


 セナは少し考えてから、新しい短冊を取った。


 そして書き直す。


『困った時に、手伝ってと言えますように』


 リノはそれを見て、静かに笑った。


 いろはは桃色の短冊に書いていた。


『かわいい写真がいっぱい撮れますように』


 そして、少し考えてからその下に付け足す。


『みんなで写れますように』


「ひとりでかわいいより、みんなでかわいい方がたぶん楽しいから」


 いろはは、少し照れたように笑った。


 ひまりは赤い短冊に大きく書いていた。


『おやつがいっぱい食べられますように』


 ピリカが横からじっと見る。


「ひまり、それ本当に一番の願い?」


「えっ」


 ひまりは短冊を見つめる。


「一番って言われると……えっと……」


 少し考えて、もう一枚の赤い短冊を取った。


 今度は、ゆっくり書く。


『痛かったって言える子が、ちゃんと見つかりますように』


 リノは、その文字を見て胸がきゅっとした。


 ひまりは照れ隠しのように、短冊の端へ小さく書き足す。


『あと、おやつも少し』


 ピリカが笑う。


「結局おやつ入れるんだ」


「少しだから!」


 ピリカの短冊にはこう書かれていた。


『ひまりがばしゅーってなりすぎませんように』


「それ短冊に書くの!?」


「大事な願いだよ」


「じゃあ、わたしも書く!」


 ひまりはさらに小さな短冊を取る。


『ピリカが勝手におやつを食べませんように』


「食べてないもん!」


「この前食べたじゃん」


「あれは味見!」


「味見って言えば許されると思ってるでしょ」


「思ってる!」


「思ってた!」


 ミミルは白い短冊に、かなり真剣な顔で書いていた。


『チュロスがまた食べられますように』


「ミミル……」


 リノが笑うと、ミミルは慌てて短冊を裏返した。


「ち、違うんだ。これは大事な願いで」


「うん。大事だね」


「チュロスは、外がさくってして、中がふわってして、甘いから……」


「説明まで始まった」


 ミカが笑った。


 でも、リノは気づいた。


 ミミルが短冊の裏に、もう一つ小さく書いていることに。


『もう誰も、ひとりで待ちませんように』


 リノは何も言わなかった。


 ミミルは少し照れたように、短冊を両手で抱える。


「チュロスも本当だよ」


「うん」


 リノは頷いた。


「どっちも本当だね」


 ルルは青白い短冊に静かに書いた。


『星が見えない夜にも、道を見失いませんように』


「きれいですね」


 リノが言うと、ルルは少しだけ笑った。


「自分に言っているのかもしれない」


 ノアは、やっぱり書いていなかった。


 少なくとも、みんなの前では。


「さて」


 ミカがぱんっと手を叩く。


「書けた人から笹に結ぼう!」


 その瞬間、ミミルとピリカが顔を見合わせた。


「星の糸を少しだけ使うと、きれいに結べるよ」


 ミミルが言う。


 ピリカも頷く。


「ほんのちょっとなら、短冊がきらきらするよ」


 セナがすぐに眉を寄せた。


「魔法使用は必要最小限にしてください」


「今回はリボン禁止デーじゃないよ?」


 ミカが笑う。


「でも、前科があります」


「前科って言われた」


 リノが苦笑する。


 とはいえ、星の糸で結ばれた短冊は確かにきれいだった。


 白い糸がきらきらと光って、笹の葉に小さな星が乗ったように見える。


 ミミルが少し。

 ピリカが少し。

 ルルも補助に、星の光をほんの少し。


 ひまりが「ちょっとだけ赤リボンも足したらかわいいかも」と言い、リノが「灰色の糸も少しなら落ち着くかも」と思い、いろはが「写真映えするね」と言った。


 そして。


 笹が、にょきっと伸びた。


「……え?」


 さらに、にょきにょきにょきっと伸びた。


 机の高さを越え、黒板の上を越え、あっという間に教室の天井に届く。


 笹の葉がわさわさ広がり、教室の半分が緑色になった。


 ひまりが目を丸くする。


「……笹って、こんなに伸びるもの?」


 セナが即答した。


「伸びません」


 ピリカが小さく手を上げる。


「ピリカ、ちょっと星の糸足しすぎたかも」


「“ちょっと”の大きさがおかしいです」


 ミミルが耳を伏せる。


「ぼくも、少しだけ調整しようとして……」


「少しが積み重なった結果ですね」


 いろははスマホを構えた。


「待って、この背景かわいい」


「待っている場合ではありません」


 セナが言った瞬間、短冊が一枚、ふわりと浮いた。


 ミミルの短冊。


『チュロスがまた食べられますように』


 短冊は、教室の扉の方へすーっと飛んでいく。


「ミミルの願い、逃げた!」


 リノが叫ぶ。


「購買の方向だ!」


 ミミルが目を輝かせる。


「やっぱりチュロスは星の導きに近いんだ」


「感動してる場合じゃないよ!」


 さらに、ひまりの短冊も浮いた。


『あと、おやつも少し』


 赤い短冊がミミルの短冊を追いかけるように飛ぶ。


「えー! 待って、わたしの短冊!」


 ピリカが叫ぶ。


「おやつの願い、強すぎ!」


 ひまりは廊下へ飛び出しそうになり、ピリカに耳を引っ張られた。


「入っちゃダメなところまで行かない!」


「でも短冊が!」


「願いが走ってるだけ!」


「それが困るんだよ〜!」


 次に、ミカの短冊が光った。


『みんなでまた楽しいことができますように』


 すると、机と椅子が勝手に丸く並び始めた。


 折り紙の輪っかが飛び、なぜか教室の中央に輪投げセットのようなものができあがる。


 ミカが目を輝かせる。


「始まりました、第一回七夕笹パニック!」


「始まらなくていいです!」


 セナが叫ぶ。


 今度はセナの短冊が淡く光った。


『困った時に、手伝ってと言えますように』


 すると、短冊がセナの周りをくるくる回りながら、全員の方へ飛んでいく。


「手伝って」


「手伝って」


「手伝って」


 短冊たちが小さな声のように揺れる。


 ひまりがちょっと感動した顔になる。


「まじめちゃんの短冊、ちゃんと手伝ってって言えてる」


「私本人が言ったわけではありません」


「でも、短冊は言ってるよ」


「……それは少し複雑です」


 いろはの短冊も反応した。


『みんなで写れますように』


 笹の葉が勝手に背景セットのように広がり、星飾りがスポットライトみたいに並ぶ。


 いろはが思わずスマホを構える。


「待って、これ今撮らないと!」


「いろはさん!」


「だって背景が完璧!」


「暴走中です!」


 ルルの短冊は、静かに天井近くへ浮かび、教室の蛍光灯を少しだけ星空のように変えた。


『星が見えない夜にも、道を見失いませんように』


 教室に小さな星の光が散る。


 ひまりがぽかんと見上げた。


「わあ……きらきらしてる」


 でも、すぐに別の短冊がびゅんっと飛んできて、ひまりの顔にぺたりと貼りついた。


「わぷっ」


 ピリカが笑う。


「ひまり、七夕っぽくなった!」


「顔に短冊は七夕っぽくないよ〜!」


 ミミルは巨大笹の葉に絡まって、星飾りみたいにぶら下がっていた。


「ぼくは飾りじゃない!」


 ピリカは短冊に乗って、教室の中を滑空している。


「ひまりー! これ思ったより速い!」


「ピリカ、楽しんでない!?」


「ちょっと楽しい!」


「いいな〜!」


「ひまりは乗らない!」


 セナは必死に状況を分類していた。


「願望系、食欲系、撮影欲求系、支援要請系、天文系……」


 ミカが隣で実況する。


「セナちゃん、謎の分類を始めました!」


「実況しないでください!」


「撮影欲求系ってなに?」


 いろはが言うと、セナが短く答えた。


「あなたの短冊です」


「なるほど!」


 その時。


 黒い短冊が、ひらひらと笹の上から降ってきた。


『宿題がぜんぶ消えますように』


『好きなお菓子だけで生きられますように』


『怒られない悪い子になれますように』


『がまんしなくていい世界になりますように』


 ひまりが思わず一枚を見つめる。


「お菓子だけで生きるのは、ちょっといいかも……」


「ひまり!」


 ピリカが短冊から落ちそうになりながら叫んだ。


 黒板の隅に、黒い星の影がにじむ。


「メルも七夕したーい」


 メルが、笹の枝の上からひょこっと顔を出した。


 黒と赤紫のフリルを揺らし、黒い短冊を何枚も抱えている。


「勝手に増やさないでください」


 セナが即座に言った。


「えー? 願いごとは多い方が楽しいでしょ?」


 メルは枝に腰掛け、黒い短冊をひらひらさせる。


「悪い子の短冊、リボンつけたらもっとかわいいよね」


「黒い短冊に黒いリボンは見えません」


「そこがいいんだよ」


 ひまりがメルを指差す。


「メル、七夕でもいたずらするんだ」


「えへへ、季節感あるでしょ?」


「季節感ってそういうことじゃないと思うんだけどさ」


 メルは嬉しそうに笑う。


「赤リボンちゃんも書く? 『怒りたいだけ怒れますように』って」


「書かないよ」


 ひまりは少しむっとして、それから自分の赤い短冊を胸に抱えた。


「わたしは、痛かったって言える子が見つかりますようにって書いたもん」


「ふうん」


 メルの笑顔が、ほんの少しだけ細くなる。


「赤リボンちゃんらしいね」


 リノは笹の中をかき分けながら、黒い短冊を拾った。


『がまんしなくていい世界になりますように』


 それは、メルの短冊だった。


 リノはその文字を見て、少し黙る。


 黒い願い。


 でも、願いそのものは。


「メル」


「なあに、いい子ちゃん」


「これ、破らないよ」


 メルが少しだけ目を丸くした。


「え?」


「がまんしなくていい世界っていう願いは、悪いだけじゃないと思う」


 メルは枝の上で足を揺らすのをやめた。


 リノは白い短冊を一枚取り、そこに書いた。


『がまんしないで言える場所ができますように』


 そして、メルの黒い短冊の隣に結ぶ。


「でも、誰かを傷つける形で叶えるのはだめ」


 メルは、少しつまらなそうに頬をふくらませた。


「いい子ちゃん、願いごとも結び直すんだ」


「うん」


「めんどくさいね」


「たぶんね」


 リノは少し笑った。


 その時、ノアの方から鋭い声が飛んだ。


「見ないで」


 全員が振り返る。


 黒っぽい短冊が、風に乗ってふわふわ飛んでいた。


 ノアの手から離れたものらしい。


 ひまりが思わず目を丸くする。


「え、ノア先輩、書いてたの?」


「見たら縛る」


「短冊に本気出しすぎ!」


 ミカが慌てて手を振る。


「見ない見ない! でも落ちるよ!」


 ノアは黒いリボンを出しかけて、はっと止まる。


「……」


 セナがすかさず言う。


「今、リボンを使いかけましたね」


「七夕笹パニック中にそれ言う?」


「言います」


 黒い短冊は、笹の高いところに引っかかった。


 リノだけが、近くにいた。


 ほんの少しだけ、文字が見えた。


『会えますように』


 それだけ。


 灯里なのか。

 ノクスなのか。

 あるいは、どちらもなのか。


 リノは何も聞かなかった。


 ただ、そっと短冊を取り、笹の高いところへ結び直した。


 ノアは何も言わない。


 でも、その黒いリボンは、さっきより少しだけ静かに揺れていた。


「リノ!」


 ミカの声で、リノは我に返る。


 教室はまだ笹だらけだ。


 短冊は飛び回り、星飾りは増え続け、ミミルはまだ笹に絡まっている。


「ぼくを下ろして!」


「今行く!」


 リノは笹の枝を見上げた。


 願いごとが暴れている。


 叶えようとしているのか。

 逃げているのか。

 ただ、見つけてほしいだけなのか。


「願いごとって」


 リノは呟いた。


「叶えるだけじゃなくて、結ぶものなんだ」


 ルルが頷く。


「うん。空へ投げるだけじゃなくて、どこに結ぶかを選ぶ」


 リノは胸元のリボンに触れた。


 今日は戦いじゃない。


 でも、結ぶことならできる。


「みんな、短冊を捕まえて、笹に結ぼう」


 ミカが拳を上げる。


「了解! 七夕笹パニック、収束作戦開始!」


「実況名が増えました」


 セナが呟く。


 いろははスマホをしまい、短冊を捕まえた。


「よし、写真はあと! 今は結ぶ!」


 ひまりは赤い短冊を追いかける。


「待って、わたしのおやつ少し!」


 ピリカが叫ぶ。


「そっちじゃなくて、痛かったって言える子の方も!」


「分かってるよ〜!」


 ミミルはようやく笹から下ろされ、すぐに自分のチュロス短冊を追いかけた。


「チュロス、待って!」


「ミミル、願いに振り回されすぎ!」


 ノアは「くだらない」と言いつつ、飛んできた短冊を片手でつかんで笹に結んだ。


 結び方が妙にきれいだった。


 メルは枝の上でそれを見ていた。


「つまんないの。せっかく暴れてたのに」


 ひまりが下から見上げる。


「暴れるより、ちゃんと結んだ方がかわいいよ」


「赤リボンちゃん、それ本気で言ってる?」


「うん!」


「まぶしいなあ」


 メルは目を細めて笑った。


 やがて、短冊は一枚ずつ笹に結ばれていった。


 教室を埋めていた巨大な笹も、少しずつ元の大きさに戻っていく。


 天井の星空も淡くなり、机と椅子も元の場所へ戻る。


 最後に、ミカの短冊が笹の真ん中で揺れた。


『みんなでまた楽しいことができますように』


 その隣には、リノの短冊。


『大丈夫じゃない時に、大丈夫じゃないって言えますように』


 セナの短冊。


『困った時に、手伝ってと言えますように』


 いろはの短冊。


『みんなで写れますように』


 ひまりの赤い短冊。


『痛かったって言える子が、ちゃんと見つかりますように』


 小さく、


『あと、おやつも少し』


 ピリカの短冊。


『ひまりがばしゅーってなりすぎませんように』


 ミミルの短冊。


『チュロスがまた食べられますように』


 その裏に、


『もう誰も、ひとりで待ちませんように』


 ルルの短冊。


『星が見えない夜にも、道を見失いませんように』


 ノアの黒い短冊は、高いところでひっそり揺れている。


 そして、メルの黒い短冊。


『がまんしなくていい世界になりますように』


 その隣に、リノの白い短冊。


『がまんしないで言える場所ができますように』


 教室の中が、少し静かになった。


 メルは枝の上で膝を抱え、短冊を見下ろしている。


「いい子ちゃんって、ほんと変」


「そうかな」


「メルの短冊、破らなかった」


「願いは、書いてもいいと思うから」


「叶え方はだめって言うくせに?」


「うん」


 リノは笹を見上げた。


「そこは、だめって言う」


 メルはふうん、と小さく笑った。


「じゃあ、今日のところは、結ばれてあげる」


「結ばれてあげるって何?」


 ひまりが首をかしげる。


「メル語で、今回は負けって意味かも」


 ピリカが言う。


「負けてないもーん」


 メルは黒い星の影へ足を沈める。


「七夕って、思ったよりめんどくさいね。でも、ちょっとだけ楽しかった」


 ミカが手を振る。


「また普通に短冊書きに来てもいいよ」


「普通に?」


「うん。いたずら少なめで」


「それは難しいなあ」


 メルは笑いながら、黒板の影へ消えていった。


 最後に、黒い星型の紙吹雪だけが一枚、ひらりと落ちた。


 そこには小さく書かれていた。


『次は宿題を消す願いにしようかな♡』


 セナがすぐに拾う。


「却下です」


 ひまりが笑う。


「まじめちゃん、反応はやい!」


 放課後の教室には、七夕飾りだけが残った。


 少しだけ大きくなりすぎた笹。

 少しだけ増えすぎた星飾り。

 そして、たくさんの願いごと。


 窓の外を見ると、空は少し曇っていた。


 天の川は見えない。


「星、あんまり見えないね」


 ひまりが言う。


 ルルは空を見上げた。


「見えない日もあるよ。でも、そこにないわけじゃない」


「そっか」


 ひまりは自分の赤い短冊を見上げる。


「じゃあ、願いも見えないだけで、ちゃんとあるのかな」


「あると思う」


 リノは言った。


「見えなくても、言えなくても、ちゃんとあるんだと思う」


 ミカがリノの短冊を見て、そっと笑った。


「リノちゃんの願い、それ、もう少し叶ってるかもね」


「え?」


「大丈夫じゃない時に、大丈夫じゃないって言えてるから」


 リノは少し驚いて、それから小さく笑った。


「うん」


 短冊が、風に揺れる。


 白い短冊。

 赤い短冊。

 青白い短冊。

 黒い短冊。


 願いは、きれいなものばかりじゃない。

 まっすぐ叶えばいいものばかりでもない。


 でも、誰かと一緒に結べるなら。


 暴れて飛んでいく前に、ちゃんと形を変えられるのかもしれない。


 リノは笹を見上げた。


 星は見えない。


 でも、願いごとはそこにあった。


 小さな短冊になって、夕方の風に、そっと揺れていた。

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