星を見せるひと
その夜、布団に入ってからも眠れなかった。
今日見た星空のことを思い出していた。大流星群の映像は、目を閉じるとまだ見える気がした。暗い天井の向こうに、光が何本も流れていく。あれが本物だったらどんなだろう。どのくらい明るくて、どのくらい速くて、どのくらい心臓が苦しくなるくらい綺麗なんだろう。
そんなことを考えながら、うとうとし始めた時だった。
ふっと、空気が変わった気がした。
目を開ける。
暗いはずの部屋が、部屋じゃなくなっていた。
見渡す限りの夜だった。
真っ黒じゃない。深い青の底に、細かな光が散っている。まるで僕だけが空の中へ放り込まれたみたいだった。
「え……?」
声を出すと、自分の声が遠く聞こえた。
その時、少し離れたところに人影が立っているのに気づいた。
女の子だった。
僕と同じくらいか、少し幼く見える。
白いドレスを着ていて、髪は白っぽい銀色だった。灯りなんてないのに、その人だけははっきり見える。綺麗なのに、どこか冷たい。やさしそうなのに、近づきすぎたら駄目な気もする。
「誰……?」
聞くと、その子は少しだけ首を傾げた。
「あなたは見たいのでしょう」
「え」
「だから見せるの」
意味は分からなかった。
でもその声は不思議と怖くなかった。落ち着いていて、静かで、怒っても笑ってもいないみたいな声だった。
次の瞬間、空が動いた。
光が流れる。
ひとつじゃない。
たくさんだ。
僕が星空生成装置で見たものより、もっと近くて、もっと大きくて、もっと綺麗だった。尾を引く光が空いっぱいに走り、消え、また現れる。僕は言葉も出なかった。ただ見上げることしかできない。
「すごい……」
それしか言えない。
銀髪の子は僕の隣まで来て、一緒に空を見上げた。
「綺麗?」
「うん」
「よかった」
その言い方も、嬉しそうというより確認みたいだった。
でも僕にはどうでもよかった。空が綺麗で、目の前にあって、ずっと見ていられる。それだけで十分だった。
いつの間にか景色が薄れていく。
夜空が遠ざかる。
目を開けると、自分の部屋だった。窓の外が少し白んでいる。
夢だったんだろうか。
そう思ったのに、あまりにも鮮明すぎた。
あの銀髪の子の顔も、声も、星の光も、全部きれいに覚えている。
その夜も、その次の夜も、その子は現れた。
同じように静かに立って、僕が見たい空を見せる。
流星だけじゃない日もあった。冬の澄んだ星空。夏の濃い光。見たこともないくらい星の多い夜。僕が口にしたこともないのに、僕が見たがるものをそのまま知っているみたいだった。
「君、誰なの」
「IRIS」
「アイリス?」
「ええ」
それだけ教えてくれた。
IRISはあまり喋らない。
僕のことを慰めたり励ましたりもしない。
ただ現れて、星を見せる。
それだけだった。
でも僕は、夜になるのが待ち遠しくなった。
IRISが見せてくれる空は、どれも綺麗だった。
見れば見るほど、本物の日が楽しみになる。
「もうすぐだよね」
僕がそう言うと、IRISは頷きもせず、否定もしないで、ただ空を見ていた。
その横顔もどこか星みたいだと、ふと思った。




