星空生成装置
都会へ行く日は、朝から落ち着かない。
何度行っても慣れない。汽車に揺られて、窓の外の景色が畑から建物へ変わっていくのを見ると、少しだけ別の世界へ行くみたいな気分になる。都会は田舎より人が多くて、音も多くて、なんだか空まで忙しそうに見えた。
僕はその都会の空が少し苦手だった。
明るすぎて、夜になっても星が見えにくいからだ。
そのかわり、ここには星空生成装置がある。
建物の前に立つだけで胸がどきどきする。大きな看板。暗い室内へ続く入口。受付の人の慣れた笑顔。僕は握りしめていたお小遣いを差し出して、ぎりぎり足りたことにほっとした。
「また来てくれたんだね」
「うん」
「今日は特別上映もあるよ」
「大流星群のやつ?」
「そう。好きでしょう?」
「大好き」
自分でも、ちょっと恥ずかしいくらい即答だった。
でも、受付の人は笑っただけだった。
中は静かで、少しひんやりしていた。席に座って明かりが落ちるのを待つ。暗くなる。天井が見えなくなる。その次の瞬間、星が生まれる。
いつ見ても、息をするのを忘れそうになる。
頭の上に、夜空が広がる。
田舎の空よりもっと深く、もっと澄んで見えるのは、たぶん装置のせいだ。現実よりきれいに作られているのかもしれない。それでも、綺麗なものは綺麗だった。僕は椅子の肘掛けを握りしめたまま、ずっと見上げていた。
やがて特別上映が始まる。
空の光が流れ始めた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
すぐに数えられなくなる。
空いっぱいに光の筋が走り、尾を引いて流れていく。静かな音楽までついていて、本物はこんな音がしないって分かっているのに、それでも胸がぎゅっとなるくらい綺麗だった。
僕はたぶん、少し泣いていた。
隣の席にいた人が終わってから「よかったねえ」と声をかけてきて、慌てて目元を擦った。笑われるかと思ったけど、その人はただ優しい顔をしていた。
「本物、見られるといいね」
「うん」
「今年だもんね」
「絶対見る」
絶対、と思った。
こんなに好きなのだから、見られないなんてことはない気がした。
帰り道、都会の空を見上げる。
まだ夕方で、星は見えない。
けれど僕の頭の中には、さっき見た光が何度も流れていた。
装置の星は綺麗だ。
でも、やっぱり本物が見たい。
本物の空で、本物の星が流れるところを、この目で見たい。
それだけで、胸がいっぱいになった。




