二十年に一度
大流星群の日が近づくにつれて、僕は本当に落ち着きがなくなった。
朝起きても夜のことを考えるし、ごはんを食べていても空を見上げるし、学校でも先生の話が半分も頭に入らない。友達には「また星の話?」と言われたけど、仕方ない。本当に待ちきれなかったのだ。
「あと何日?」
「分かってるよ、あと三日」
「昨日も同じこと言ってた」
「だって楽しみなんだもん」
自分でも笑ってしまうくらい、ずっとそのことばかり考えていた。
父さんも母さんも、そんな僕を見て苦笑していた。
「そこまで楽しみにできるの、逆にすごいね」と母さんが言う。
「本物が見られるといいな」と父さんも言った。
その言葉だけで、胸があたたかくなった。
町では少し変な噂も流れていた。
都会の方で兵が動いているとか、検問が増えたとか、物資の流れが悪いとか。大人たちは小さな声で話していたけど、僕にはよく分からなかった。難しいことより、空の方が大事だったし、誰も僕に詳しく説明しようとはしなかった。
たぶん、大したことじゃないんだと思った。
そのくらいにしか考えていなかった。
前夜、IRISはいつもより長くそこにいた。
見せてくれた空も、いちばん綺麗だった。
暗い世界の中に無数の星が浮かんで、そこへ光が静かに降ってくる。大流星群。僕がずっと見たかったもの。何度見ても、胸の奥が痛いくらいだった。
「明日だよ」
僕は言った。
「ええ」
「本物が見られる」
「そう」
IRISの返事は短い。
でも嘘をついている感じも、からかっている感じもなかった。ただ、その言葉をそのまま受け取ったみたいだった。
「君も見る?」
「見ているわ」
その言い方が少し変で、僕は首を傾げた。
でも深くは聞かなかった。聞くより先に、空を見ていたかったからだ。
眠る前、僕は明日のことを思った。
たぶん人生でいちばん綺麗な夜になる。
そうしたら、僕はずっと覚えていられるだろう。大人になっても、年を取っても、あの夜がいちばんだったって言えるだろう。
早く明日になればいい。
それだけを願って目を閉じた。




