空を埋めるもの
その日は朝からそわそわしていた。
空は晴れていた。雲も少ない。夕方になっても崩れそうな気配はない。これなら見える。絶対見える。僕は何度も外へ出ては空を見上げて、母さんに「まだ夜じゃないよ」と笑われた。
やっと日が沈む。
僕はいつもの場所へ行った。
家の近くの少し開けたところ。田舎だから灯りも少なくて、空がよく見える。望遠鏡を持っていこうか迷ったけど、今日は要らない気がした。だって、空そのものを見る日だからだ。
暗くなる。
星が出る。
僕は息を止めるみたいにして、空を見上げていた。
最初の光が見えた時、胸が跳ねた。
「あ」
一筋、流れる。
そのあと、また一筋。
来た。
ほんとに来た。
僕は笑っていたと思う。たぶん声も出していた。分からない。それくらい嬉しかった。
けれど、すぐに様子が変わる。
光が増える。
ひとつ、ふたつ、なんて数えられない。
いくつも、いくつも、いくつも。
空のあちこちを横切っていく。
多すぎる。
でも、綺麗だった。
息が苦しくなるくらい綺麗だった。
次に、音がした。
流れ星って、こんな音がするんだろうか。
低くて、重くて、空気を引き裂くみたいな音。
雷みたいでもあって、でも雷よりずっと長く尾を引く響き。
おかしい。
そう思ったはずなのに、僕はまだ空から目を離せなかった。
光は遠くの都市の方へ降っていく。
尾を引きながら、幾筋も、幾筋も。
その先で何かが光る。少し遅れて、また重い音が届く。地面の下で何かが揺れた気がした。
それでも空は綺麗だった。
怖いのに、綺麗だった。
本当に、本物の大流星群だったらよかったのにと思った。
これが僕のずっと見たかったものだと、そういうことにしたかった。
空を埋める光の中に、ふと白い影が見えた気がした。
振り向く。
少し離れた場所に、IRISが立っていた。
白いドレス。
白っぽい銀髪。
夜の中で、その姿だけが静かに浮いている。
IRISは何も言わなかった。
僕も何も言えなかった。
ただ、一緒に空を見ていた。
綺麗だった。
ほんとうに、どうしようもなく綺麗だった。
その日、僕たちの都市に無数の星が降り注いだ。




