プロローグ
教会で祝福のお祈りをした帰り道でも、僕は空のことを考えていた。
みんなは僕のまわりで、祝福がどうとか、十になったからこれからが楽しみだとか、そんな話をしていた。母さんも近所のおばさんも、なんだか自分のことみたいに嬉しそうだった。けど僕は、へえ、とか、うん、とか、適当に返事をしながら、ずっと空を見上げていた。
昼の空には星なんて見えない。
分かってる。そんなことはずっと前から分かってる。分かってるけど、癖みたいなものだった。青い空の向こうに夜があって、その向こうに星があると思うと、つい見てしまう。
「カナタ、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
そう答えながら、僕はまた空を見た。
高いところに薄い雲が流れている。今夜は晴れるかもしれない。晴れたら南の方から見よう。昨日はあの星が少し見つけにくかったから、今日は望遠鏡の向きを先に合わせておいた方がいいかもしれない。
そんなことばかり考えていた。
祝福だって大事なんだろうとは思う。教会でもそう言っていたし、村の大人たちはみんな当たり前みたいにそういう顔をしている。けど、今の僕にとっていちばん大事なのは、祝福より星だった。
だって、もうすぐなんだ。
二十年に一度の大流星群が来る。
本物の空を、光が埋め尽くす日。
星空生成装置で見たあの映像より、もっとすごいものが、本当に空に現れる日。
道端の小石を蹴りながら歩いていると、遠くの丘の向こうに都会の方角があるのを思い出した。あっちには星空生成装置がある。僕が貯めたお小遣いを握りしめて、何度も見に行った場所だ。人工の星だって分かっていても、あの場所は綺麗だった。息が止まりそうなくらい、綺麗だった。
でも、やっぱり僕は本物が見たかった。
教会を振り返る。
白い壁と古い鐘楼が、昼の光の中で少しまぶしく見えた。
主さまがほんとうにいるなら、祝福なんかより、星をもっと近くで見せてくれたらいいのに。
そんなことを考えて、ちょっとだけ罰当たりかなと思ったけど、やっぱり空から目が離せなかった。




