やわらかな声
最初に気づいたのは、村の老人だった。
冬が近づくといつも咳をこじらせる人で、その日も礼拝堂の隅で苦しそうに肩を揺らしていた。細い背中が何度も上下し、そのたびに胸の奥で何かが引き裂かれるような音がする。私はあわてて水を持っていき、隣に膝をついた。
「少し、楽になりますように」
そう言って手を握り、いつも通りの祈りを口にする。
咳はすぐには止まらなかった。熱も下がらなかったし、痩せた体つきが急に丈夫になるわけでもない。ただ、しばらくすると老人の呼吸が少しだけ落ち着いた。額の皺がほどけ、苦しそうに歪んでいた口元がわずかに緩む。
「……ああ、すまないね」
「謝らないでください」
「お前さんの声を聞いてると、少しだけ楽になる」
そう言われて、私は困ってしまった。
そんなことを言われるほど、私は特別な人間ではない。ただ祈っただけだ。きっと、主が見ていてくださったのだろう。
似たことはそれから何度かあった。
熱を出した子の手を握った時もそうだった。泣き疲れて息を詰まらせていた幼い子が、私が祈りを口にすると、ゆっくりと肩の力を抜いた。熱が消えたわけではない。苦しみがなくなったわけでもない。けれど、少しだけ眠りやすそうな顔になった。
「リナお姉ちゃんの声、好き」
熱に浮かされた声でそう言われて、私は思わず笑ってしまう。
「それは主の御声がやさしいからですよ」
「でも、リナお姉ちゃんが言うと、もっとやさしい」
そんなことはない、と否定したかったのに、子供はもううとうとと目を閉じてしまっていた。
他の人の祈りと私の祈りで、何か違いがあるのだろうか。
考えたことがないわけではない。けれど、考えたところで分からない。祝福のことだって、私は自分のものを正確には知らないのだから。
ただ、祈った相手が少し楽そうになるのを見るたび、胸の奥が静かに満たされた。
私にも、できることがあるのかもしれない。
ほんの少しでも、誰かの痛みを和らげられるのなら。
それだけで、祈る意味は十分にあるように思えた。




