表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
その祈りは誰が為に_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/258

やわらかな声

 最初に気づいたのは、村の老人だった。


 冬が近づくといつも咳をこじらせる人で、その日も礼拝堂の隅で苦しそうに肩を揺らしていた。細い背中が何度も上下し、そのたびに胸の奥で何かが引き裂かれるような音がする。私はあわてて水を持っていき、隣に膝をついた。


「少し、楽になりますように」


 そう言って手を握り、いつも通りの祈りを口にする。


 咳はすぐには止まらなかった。熱も下がらなかったし、痩せた体つきが急に丈夫になるわけでもない。ただ、しばらくすると老人の呼吸が少しだけ落ち着いた。額の皺がほどけ、苦しそうに歪んでいた口元がわずかに緩む。


「……ああ、すまないね」

「謝らないでください」

「お前さんの声を聞いてると、少しだけ楽になる」


 そう言われて、私は困ってしまった。

 そんなことを言われるほど、私は特別な人間ではない。ただ祈っただけだ。きっと、主が見ていてくださったのだろう。


 似たことはそれから何度かあった。


 熱を出した子の手を握った時もそうだった。泣き疲れて息を詰まらせていた幼い子が、私が祈りを口にすると、ゆっくりと肩の力を抜いた。熱が消えたわけではない。苦しみがなくなったわけでもない。けれど、少しだけ眠りやすそうな顔になった。


「リナお姉ちゃんの声、好き」

 熱に浮かされた声でそう言われて、私は思わず笑ってしまう。

「それは主の御声がやさしいからですよ」

「でも、リナお姉ちゃんが言うと、もっとやさしい」


 そんなことはない、と否定したかったのに、子供はもううとうとと目を閉じてしまっていた。


 他の人の祈りと私の祈りで、何か違いがあるのだろうか。

 考えたことがないわけではない。けれど、考えたところで分からない。祝福のことだって、私は自分のものを正確には知らないのだから。


 ただ、祈った相手が少し楽そうになるのを見るたび、胸の奥が静かに満たされた。

 私にも、できることがあるのかもしれない。

 ほんの少しでも、誰かの痛みを和らげられるのなら。

 それだけで、祈る意味は十分にあるように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ