祈りの朝
朝の鐘が鳴る前に起きるのは、もう習慣になっていた。
水を汲み、竈に火を入れ、昨夜のうちに仕込んでおいた粥を温める。まだ眠い目をこすりながら台所に立つと、窓の向こうがようやく薄青くなっていくのが見えた。今日も寒い。
配る器を並べていると、年上のシスターが後ろから声をかけてきた。
「リナ、礼拝堂の掃除は済ませた?」
「これが終わったらすぐに」
「急がなくていいわ。丁寧にね」
急がなくていいと言われても、急がなければ間に合わない。けれど、そういう言葉をくれる人がいるだけで、少し肩の力が抜ける。
朝食のあと、子供たちを連れて礼拝堂へ向かう。床を拭いて、長椅子を整え、祭壇の布のしわを伸ばす。小さな子たちはじっとしていられず、すぐに何か触りたがるから目が離せない。私はそのたびに駆け寄って、駄目ですよと小声で注意した。
朝の祈りが始まる頃には、外もすっかり明るくなっていた。
村の人たちがぽつぽつと集まり、冷えた指を擦りながら席に着く。私たちの教会は大きくない。だからこそ、誰がどこに座るかまで、なんとなく決まっている。
その日は、十になった子のための祝詞もあった。
私は祭具を運び、祈りの文を読みやすいよう整え、年長のシスターの隣で頭を下げる。祝福がどんな形で現れるかは誰にも分からない。だから皆、少しだけ緊張した顔をする。けれど、その緊張の奥には必ず期待があった。主はきっと見ていてくださる。そう信じているからだ。
儀礼が終わると、今度は孤児院へ戻って洗濯物を片づける。昼には賛美歌の練習もあった。声の大きすぎる子、恥ずかしがってほとんど歌わない子、わざと変な節回しにして周りを笑わせる子。私は何度も手を叩いて、はいもう一度、とやり直させた。
忙しかった。
けれど、ひとつ仕事を終えるたび、胸の中が少しだけ温かくなる。誰かの暮らしの端を支えられているような気がして、それが嬉しかった。
夜、皆が眠ったあとで、私はひとり礼拝堂に残った。灯りは小さく、祭壇の前だけがぼんやりと明るい。
両手を組み、目を閉じる。
立派な祈りではなかったと思う。言葉だって時々うまく出てこない。ただ、今日一日を無事に終えられたことと、明日もまた誰かに優しくできますように、ということだけを静かに願った。
私は、誰かを救えるシスターになりたかった。




