プロローグ
子供たちと一緒に居るとあたたかい気持ちになる。
朝は冷える。石の床は夜の冷たさを残していて、裸足で踏めば思わず肩がすくむくらいだ。けれど、まだ薄暗い廊下をぱたぱたと駆けてくる足音を聞くと、そんなことはすぐにどうでもよくなる。
「リナお姉ちゃん、おはよう」
「おはようございます、でしょ」
「おはようございます!」
言い直した声が元気すぎて、つい笑ってしまう。寝癖のついた頭を撫でると、子供はくすぐったそうに目を細めた。
ここは豊かな場所ではない。壁は古く、窓枠は少し歪み、冬は隙間風が入る。食卓に並ぶものだって質素で、上等なパンや甘い果物なんて滅多に口にできない。それでも私は、この場所が好きだった。
まだ眠そうに目をこする子。
着替えを嫌がる子。
手を引いていないとすぐ別のところへ行ってしまう子。
皆それぞれ勝手で、騒がしくて、けれど可愛い。
洗濯籠を抱えて中庭へ出ると、朝の空気はひやりとしていた。吐いた息が白くなる。背後では子供たちが今日も何かで笑い合っていて、その声が石壁に柔らかく反響する。私はその音を聞きながら、濡れた布を一枚ずつ広げた。
忙しい一日になるだろう。掃除もあるし、朝の祈りもある。祝詞の手伝いも、孤児院の世話も、賛美歌の練習もある。やることはいくらでもあった。
でも嫌ではなかった。
こうして手を動かして、誰かの役に立てるのなら、それでいいと思っていた。
祈ることも、働くことも、誰かに寄り添うことも、きっと全部同じところへ繋がっているのだと、私はまだ素直に信じていた。




