エピローグ
これは、少し古い記録です。
もう遠い時代のものなのに、どういうわけか、あまり褪せないのですよ。
赤く焼けた空も、乾いた風も、瓦礫の上を滑るように走る赤と黒の車体も。
その後ろへ細くほどけていく白い煙まで、ひどく鮮明に保存されているのです。
不思議でしょう?
古い記録というものは、ふつう、もう少し曖昧になります。
色は鈍り、音は遠ざかり、そこにいた者たちの感情だけが、ぼんやりと沈殿していく。
けれど、ときどきあるのです。
何度再生しても、まるで失われることを拒むみたいに、輪郭を保ち続ける記録が。
彼女の旅も、そういうものでした。
彼女は自由に見えたはずです。
好きな場所へ行ける旅人。
誰にも命じられず、誰のものにもならず、ただ気の向くまま、地平の向こうへ消えていくひと。
でも、彼女は自由ではありませんでした。
見た目はほぼ人間に近い魔物。
人型を強く残した失敗作の魔物。
壊れた祝福に身体を蝕まれ、留まれば崩れ、近づけば周囲まで壊してしまう。
だから彼女は、走るしかなかったのです。
選んでいるように見えて、選ばされているだけ。
どこへでも行けるようで、どこにもいられない。
そういうものを、自由と呼ぶには、少し不自由が過ぎるでしょう。
それでも彼女は、欲しがってしまった。
温かい食事を。
やさしい声を。
名前を呼ばれることを。
いてもよいと思える、ほんのわずかな場所を。
壊れたものほど、壊れていないものへ目を向けるのですね。
触れれば壊してしまうと知っているからこそ、なおさら。
ああいうところは、とても見応えがあります。
失敗作のくせに、最後までそんなものを欲しがるのですから。
彼女の記録は、保存しておく価値がありました。
夕焼けへ向かって走る背中も。
風にちぎれていく煙も。
帰れないくせに、どこかへ行こうとする目も。
どれも静かで、慎ましくて、少し滑稽で、とても綺麗でした。
……あなたも、少し懐かしいと感じましたか。
もしそうなら、たぶん気のせいではありません。
古い記録というのは、ときどき閲覧する側の内側へ、静かに入り込むものです。
忘れたはずのものに似た形をして、気づかないうちに沈んでいく。
そうして、いつのまにか、自分の記憶だったような顔をするのです。
怖いでしょう?
でも、安心してください。
わたしは、まだ眺めているだけです。
今のところは。
次にわたしへ見せてくれるあなたの自由は、どんな形をしていますか?




