プロローグ
恋というものを、私はずっと、もっと分かりやすいものだと思っていた。
胸が苦しくなって、目で追ってしまって、少し喋れただけで一日が明るくなる。
たぶんそういうものを恋と呼ぶのだろうし、たぶんそれで充分なんだと思っていた。
好きになった相手が、いつか自分を見てくれるかもしれない。
そういう期待を、少しだけ大事に抱えていられるものだと思っていた。
あの頃の私は、まだ子どもで、世界も今よりずっと簡単だった。
教室の窓から入る光とか、廊下を走る足音とか、放課後のグラウンドのざわめきとか、そういうもの全部が、ちゃんと同じ季節の中に並んでいた。
誰かを好きになることも、その季節の一部みたいなものだった。
だから最初は、本当にただ、それだけだったのだと思う。
少し背が高くて、よく笑って、サッカーをしている男の子を見て、きれいだなと思った。
それだけで、充分だったはずなのに。
あとから考えると、おかしくなっていったのは、たぶんそこからじゃなかった。
私の恋は、ちゃんと私の中から始まった。
でも、その先にいたものは、最初から私の方なんて見ていなかったのかもしれない。
それでも、あの時の気持ちが嘘だったとは思わない。
一目見た瞬間に、世界の色が少しだけ変わった。
あれが恋じゃなかったら、きっと私は、恋を知らないまま大人になっていた。
ただ、その恋の先にあったものが、愛ではなかっただけだ。
そういう話を、これからする。




