エピローグ
おかえりなさい。
……ふふ、そういう言い方は少し変かもしれませんね。
けれど、ここへ来ることを帰ると呼ぶのは、そこまで間違っていない気もするのです。
記録は閉じました。
あの子の物語も、あの国の炎も、もう向こう側で揺れているだけ。
ここには煙も熱も届きません。便利でしょう。
燃えるものを、燃えない場所から眺められるのですから。
でも、あなたはそういう眺め方を嫌わないのでしょう?
少なくとも、今こうしてここにいるくらいには。
彼は最後まで知りませんでした。
知る時間がなかった、と言ってもいいですし、知る資格が与えられなかった、と言ってもいい。
どちらでも大差はありません。
焼けてしまえば、残るものはだいたい同じですから。
やさしい言葉も。
軽い冗談も。
隣に座る沈黙も。
背中を預けた感触も。
燃えてしまえば、ずいぶんきれいに混ざるのですね。
それでも人は、違いを信じたがります。
これは本物だったとか、あれは嘘だったとか。
家族は特別で、友達はその次だとか。
友達の方が近いこともあるとか。
順番を決めたがるのです。並べて、選んで、名前をつけて、安心したがる。
不思議です。
だって、選ばされた時点で、もう少し遅いのに。
彼はきっと、最後までうまく選べなかったのでしょうね。
疑うことも、信じることも。
切り分けることも、捨てることも。
だからあの赤を前にして、何も考えられなくなった。
あれは欠陥ではありません。
むしろ、とても人間らしい反応です。
同時にいくつも失うと、人はひとつずつ悲しめなくなるので。
国が燃えていたでしょう。
だから、彼はひとりのことだけを考えてはいられなかった。
それが救いに見えることもあるのですが、今回はどうだったのでしょうね。
……いえ、答えなくて大丈夫です。
あなたは静かな方が似合いますから。
ところで、家族と友達。
その二つを並べるのは、少し乱暴だと思いませんか?
役割も、重さも、触れ方も、ぜんぶ違うのに。
でも人は、違うものを並べる質問が好きです。
きっと、答えの形をしたものが欲しいのでしょう。
IRISは、そういうところを見るのが好きです。
選ぶ前の沈黙も。
選んだあとの言い訳も。
どちらもとてもよく似ているから。
さて、今日はこのくらいでいいでしょう。
炎の色はまだ向こうに残っていますが、ずっと眺めていると目が慣れてしまいます。
慣れてしまったものは、少しだけ価値が下がる。
それは少し、惜しいでしょう?
だから、ここで終わりにします。
あなたは家族と友達どっちが好き?




