忘れ物はないか
朝食の時間に家にいる日は少ない。
それでも、いられる時は座る。
食卓に座り、味噌汁を飲み、ミオのランドセルを見る。
ナツキは、俺が何も言わなくてもわかっているように、ミオの給食袋を椅子にかけた。
「ミオ、連絡帳入れた?」
「入れた」
「ハンカチは?」
「入れた」
「黄色い傘」
「持ってく」
ミオは玄関の方を指した。
「今日はサナちゃんの家に行くのか?」
ナツキが聞いた。
ミオは卵焼きを口に入れたまま頷いた。
「飲み込んでから返事しろ」
俺が言うと、ミオは急いで飲み込んだ。
「行く。宿題してから帰る」
「遅くなるなよ」
「うん」
「傘、忘れるな」
「忘れないってば」
ミオは少しだけ口を尖らせた。
俺はそれ以上言わなかった。
何度も言いすぎると、子供は言葉を聞かなくなる。
必要なことは、必要な時にだけ言えばいい。
食器を下げる時、ミオのランドセルの口が少し開いているのが見えた。
俺は黙って閉めた。
ナツキがそれを見て、笑った。
「ほんと、細かいよね」
「細かくないと困る」
「何が?」
「仕事が」
ナツキはそれ以上聞かなかった。
俺もそれ以上言わなかった。
家では、仕事の話をしない。
それは、俺の中で決めていることだった。
仕事は外で終わらせる。
家に持ち込まない。
それも責任の一つだった。




