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エピローグ
彼は、長いあいだ繋がれていました。
最初に触れていたものは、やさしいものではありません。
逃がさないためのもの。
従わせるためのもの。
痛みと恐れを、身体の奥へ沈めるためのものです。
そのような繋がりは、たしかにあります。
見えやすく、重く、外しにくいものとして。
けれど、繋がるということは、それだけではありません。
風が頬を撫でること。
光が肩に落ちること。
水がただ水としてそこにあること。
世界が、何も命じず、何も奪わず、ただひらかれていること。
そのようなものにも、人は触れます。
名前を知らなくても。
意味を言い表せなくても。
それでも、確かに触れてしまうことがあります。
彼の頬を伝ったものは、傷の終わりではありません。
救いの証でもありません。
ただ、閉じられていたものが、はじめて外へ触れた痕です。
繋がれていたものが、別のものへ繋がり直された。
それだけのことです。
記録は、ここで静かに閉じられます。
けれど、あのひかりは、彼の中に残ったのでしょう。
あなたは、泣いたことがあると思う?




