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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
【恐怖】樹海にいる謎生物を追え!!!【最恐】_IRIS.log

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213/258

いるかもしれない何か

 少し奥に入っただけで、空気の感じって変わるもんなんだな。


 いや、気のせいかもしれない。こういう場所にいると、ちょっとした変化でもそれっぽく感じるし、そう思い込んでるだけの可能性も全然ある。けど、さっきまでの森と今の森は、なんとなく違った。


 湿気が増えたとか、寒くなったとか、そういう分かりやすい変化じゃない。


 ただ、音が遠い。


 風が吹いてるはずなのに、葉の擦れる音が薄い。鳥もいないわけじゃないんだろうけど、鳴き声がずっと向こうに引っ込んだみたいだ。自分の足音だけがやけに近くて、そのくせ落ち葉を踏む音が、変に吸い込まれる。


「……いや〜、いいね」


 こういう時こそ、明るくいく。

 俺は自分に言い聞かせるみたいに、少しだけ声を張った。


「こういう空気、嫌いじゃないんだよな。なんか、“いるならこういうとこだよね”って感じがして。分かる?」


 スマホを自分に向ける。

 画面の中の俺は、ちゃんと笑っていた。まあ、配信中の顔なんて半分くらいは作ってるもんだ。いつも通りだ。


「いやでも、ほんとに何か出たらどうしよ。俺、たぶん最初の一声は『うわ、でっか』だと思うわ。ごめんなさいとかじゃなくて」


 コメント欄に草が流れる。

 その流れを見て少し安心する。人の気配って大事だ。実際ここにいるのは俺一人でも、画面の向こうに誰かいるってだけで、ちょっとだけ現実に引き戻される。


「まあでもさ、襲われるとかはあんま考えてないんだよな。謎生物って、別に人間嫌いとは限らんじゃん。こっちが勝手に怖がってるだけで、向こうは『また来たのか』くらいかもしれんし」


 言いながら前方を照らす。


 木。

 根。

 落ち葉。

 苔むした岩。

 また木。


 景色が代わり映えしないせいで、どれくらい進んだのかも曖昧だ。まだ全然戻れる場所にいるのか、それとも思ったより奥まで来てるのか、感覚がぼやける。


「……お?」


 右前方の木の陰に、何か縦に長い影が見えた。


 細い。

 でもただの枝にしては、妙に立ってるように見える。


「ちょっと待って、あれ何?」


 俺は自然と歩く速度を落とした。

 ライトを向ける。影は動かない。人みたいにも見えるし、木の一部みたいにも見える。こういうのが一番困るんだよな。近づくまで分からん。


「いや待って、あれちょっとヤバくない? ほら、あそこ。木の横」


 スマホ越しだと余計見づらいかもしれない。俺は少し腕を伸ばして角度を変えた。


「見える? 見えない? ……いやでもこれ、マジで立ってるっぽくね?」


 じわじわ近づく。

 足元の根を踏まないようにしながら、視線はずっとそっちの影に固定したまま。


 あと数歩、ってところで、形がはっきりした。


「あ、折れた枝だ」


 木の幹に寄りかかるように、大きな枝が一本立っていただけだった。


「いやでも今のはマジで仕方ないって! あれはちょっと立ち方が良すぎるだろ!」


 自分でツッコミながら笑う。

 コメント欄も案の定うるさい。ビビりすぎとか、今日は全部外れそうとか、もうUMAよりお前の反応が面白いとか。失礼だな。いやちょっと分かるけど。


「いいんだよ。こういうのを一個一個確認していくのが大事なんだから」


 俺は枝の横を通り過ぎる。

 その時、少し先の地面に新しい足跡みたいなものが見えた。


「ん?」


 しゃがんでライトを近づける。

 湿った土の上に、浅く窪みがいくつか並んでいる。獣の足跡、なのか? でも形がぼやけていてよく分からない。爪の跡も見えないし、蹄っぽくもない。ただ丸く沈んでるだけみたいだ。


「これ、なんかの足跡かな」


 スマホを下に向けて映す。


「鹿? 猪? ……いやでも、俺そういうの詳しくないんだよな」


 コメント欄に犬、鹿、靴跡、気のせい、などバラバラに流れていく。誰も分かってないじゃねぇか。


「まあ、動物いるのは当たり前か。この辺、人が少ないしな」


 言いながら立ち上がる。


 その時、視界の端を何か黒いものが横切った。


「うおっ」


 反射でそっちを見る。

 低い。速い。音も小さい。地面すれすれを滑るみたいに走って、すぐ見えなくなった。


「今の何!?」


 俺は慌ててライトを向けた。

 けど、もういない。茂みが少し揺れて、それで終わりだ。


「いや待って待って、今のはちょっとそれっぽくなかった?」


 自分でも声が弾んでるのが分かる。

 さっきまでの誤認とは違う。ちゃんと“生き物っぽい動き”だった。小さかったけど。


「いや、サイズ的には普通の動物っぽいけど……でも速かったな。見えた? みんな」


 コメント欄が一気に流れる。

 猫、たぬき、見えん、もう一回行け、などなど。

 猫率高いな今日は。


「猫そんなにいる? いやまあいてもおかしくないけど。いやでも今のはちょっと、猫ってより……」


 言いかけて、俺は口を閉じた。


 前の方で、ぱき、と音がした。


 枝を踏んだみたいな、乾いた音。


 俺はそっちを見た。

 ライトを向ける。木しかない。暗い幹が何本も立っているだけだ。


 けど、確かに鳴った。


「……誰かいる?」


 口をついて出た言葉に、自分で少し笑いそうになる。

 誰かいたら困るだろ。いや、人間よりはマシか? どうなんだ。分からん。


「いや、すいません。今のナシ。つい聞いちゃった」


 明るく言って流す。

 だが、その後しばらくは、自分の声が少しだけ上滑りしている気がした。


 気を取り直して歩き出そうとした時、コメント欄の流れがふっと鈍った。


 さっきまで適当なことを言っていた文字が、少し減っている。


 電波か? それともただみんな飽きただけか。まあ、どっちでもいいかと思いながら、俺はスマホの画面を確認した。配信はちゃんと続いている。映像も止まっていない。


「……よし。じゃ、もうちょい奥まで行ってみますか」


 言葉にすると、不思議と本当に行ける気がした。


 だから俺は、また前を向いた。


 その少し先、木々の間に、暗さの質が違う場所があった。


 影、というより、穴みたいな黒。


「お?」


 俺は足を止め、目を細める。


「待って。あそこ、なんかない?」

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