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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
【恐怖】樹海にいる謎生物を追え!!!【最恐】_IRIS.log

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212/258

樹海配信スタート

 樹海の中って、もっとこう、じっとりしてるもんだと思ってた。


 いや、実際じっとりはしてる。空気は少し湿ってるし、土も柔らかいし、葉っぱの匂いも濃い。けど、思ってたより“普通”だ。鳥の声もするし、虫も飛んでるし、風が吹けば枝も揺れる。映画とかで見るみたいな、入った瞬間に呪われそうな空気ってわけではない。


 まあ、それが逆にいいんだけど。


「はい、というわけで現在、樹海に侵入して数分経過しております」


 俺はスマホを自分に向け、少しだけ真面目な顔を作る。


「今のところ異常なし。強いて言うなら雰囲気がめちゃくちゃ良い。謎生物がいても全然おかしくない。俺評価、かなり高いです」


 自分で言って笑う。

 コメント欄にも草とか、評価制度あんのかとか流れていく。あるんだよ、今決めたけど。


 俺はまたカメラを前に向けた。


 細い道があるわけじゃない。人がよく通る山道みたいに踏み固められてもいない。ただ、木と木の間に、なんとなく進めそうな隙間が続いているだけだ。地面には落ち葉、折れた枝、ところどころに苔。太い根が浮き出てる場所もある。うっかりすると足を取られそうで、歩きやすいとは言い難い。


「こういう場所ってさ、なんか見つかりそうでいいよな。俺、小さい頃マジでこういう系の本好きだったんだよね。未確認生物特集とか、世界の謎の生物図鑑とか。絶対買ってたもん」


 木の幹にスマホのライトを向ける。

 ざらついた表面が白く浮かび、その向こうはまた暗い。


「いたらいいよなぁ、ほんと。いや怖いは怖いんだけど、それより見たいの方が勝つんだよ。お前らもそういうのない? 怖いけど見たい、みたいなやつ」


 コメント欄が少し賑わう。

 ない、ある、分かる、分からん、帰れ、など好き勝手だ。

 帰れは早いだろ。まだ始まったばっかだぞ。


 その時、右手の低い茂みががさっと揺れた。


「お?」


 俺はすぐに反応して、スマホをそっちへ向けた。


「待って待って待って、今なんかいたくね?」


 画面の向こうは暗い葉の影しか見えない。けど、確かに何かが動いた。小さいとか大きいとか、そういうのは分からない。でも動いた。


「いや、ガチでなんかいたって今」


 少し声を落として、ゆっくり近づく。

 足音をできるだけ抑えながら、茂みのすぐ手前まで行く。枝を一つ踏みそうになって、慌てて足をずらした。危ない。こういう時の余計な音は良くない。いや、何に対して良くないのかは知らんけど。


「おいおいおい、初手から熱いって」


 息を潜めつつ、茂みの奥を照らす。


 一瞬、丸い影が見えた。


「いた!」


 思わず声が出た。

 その影もびくっと動く。次の瞬間、するりと茂みの向こうへ抜けて、木の根元を横切った。


「あっ、猫だ」


 俺は思わず笑った。


「なんだ猫か〜。びっくりした。いやでも今の動きちょっと良くなかった? 一瞬めちゃくちゃそれっぽかったろ」


 茶色っぽい、小柄な猫だった。こっちを一瞬だけ見て、すぐ暗がりに消える。なんでこんなとこにいるんだよ。いや、樹海に猫ってどうなんだ。いるのか? 野良? それとも捨て猫? どっちにしろ強く生きろよ。


 コメント欄が一気に流れる。

 猫だろと思った、UMA第一号猫、解散、などなど。

 いや解散は早いって。


「違う違う、今のは前座だから。猫もいいけど俺が探してんのはもっとこう、夢のあるやつだから。ほら、まだ始まったばっかだし。ここからだから」


 俺は気を取り直して歩き出した。


 木々の間を進むたび、少しずつ光が減っていく気がする。時間のせいなのか、森が深くなってるからなのかは分からない。上を見ても枝と葉が重なって、空がほとんど見えない。ライトを向けた先だけが浮かんで、その外側はずっと薄暗いままだ。


「でも今の猫、普通にかわいかったな」


 独り言みたいに呟く。

 こういう何でもない一言が入ると、配信ってちょっと生っぽくなる。俺はそういうのが好きだ。


 数分進んだところで、今度は左の奥に白っぽいものが見えた。


「ん?」


 木の間、少し先。

 人の顔みたいな高さに、白い丸いものがある。


「いや待って、あれ何?」


 俺は足を止めた。

 スマホをそっちに向ける。白い。丸い。しかもじっとしてる。木の幹の間から半分だけ見えてるせいで、余計に何かっぽい。


「おいおいおいおい、あれちょっとやばくね?」


 半笑いみたいな声が出る。

 怖いというより、テンションが上がっている時の声だ。


「待って、これ来たかもしれん。いやマジで。見てる? みんな見えてる?」


 じりじり近づく。


 一歩、二歩。

 その白いものは動かない。

 だが逃げもしない。目みたいなものも、口みたいなものも見えない。ただ白い塊がそこにあるように見える。


「こういうのが一番怖いんだよなぁ……いや、怖いっていうか熱いんだけど」


 さらに近づいて、ライトをちゃんと当てる。


「……きのこだわ」


 白い大きめのきのこが、倒木から横向きに生えていた。


 俺は数秒黙ってから、声を殺して笑った。


「いや、今のはちょっと仕方なくない? 暗い中で見たらかなりそれっぽかったって。分かるだろ?」


 コメント欄がまた荒れる。

 きのこUMA説、帰れ、もう何でもUMAに見えてるだろ、と好き勝手言われる。いやまあ、最後のやつはちょっとそう。


「いいんだよ、こういう誤認も含めてロマンだから。大事なのは、見落とさないこと。全部気のせいにしてたら、本物がいても一生見つからんからな」


 言いながら、俺はまた前を向いた。


 森は静かだった。


 静か、というより、音が少なすぎる気がした。

 さっきまではもう少し鳥の声がしてた気がする。虫の羽音も、風で葉が鳴る音も、全部なくなったわけじゃない。でも、少し遠くなったみたいな感じがある。


 俺は立ち止まるほどではなく、そのまま歩いた。


「……まあ、こういう時に限って何も出ないんだけどな」


 笑って言う。

 けど、その声がほんの少しだけ、自分でも思ったより軽くなかった。

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