プロローグ
俺は未確認存在とか、謎生物とか、そういうのが好きだ。
めちゃくちゃ好きだ。
いや、こういうこと言うとたまに笑われるんだけどさ、ロマンあるだろ。だって、まだ誰もちゃんと見つけてない何かが、この世界のどこかに本当にいるかもしれないんだぞ。最高じゃん。夢あるじゃん。子どもの頃から図鑑とか特集本とか、そういうの見てずっとワクワクしてたし、今でもそういう話を聞くと普通にテンションが上がる。
幽霊はちょっと違う。怖いし、よく分かんねぇし。
でも未確認存在とか謎生物は別だ。
だって生き物かもしれないだろ。
どっかの森とか、山とか、海とか、そういう人があんまり入らない場所で、ひっそり生きてるだけかもしれない。別に人を襲う気なんかなくて、ただたまたま見つかってないだけかもしれない。そう考えるとさ、なんかいいじゃん。夢があるし、ちょっと会ってみたくならないか?
俺はなる。
なんなら普通に、会えたら話してみたいとすら思ってる。
いや、さすがに言葉が通じるかは知らんけど。そこはまあ雰囲気で。敵意ないです、仲良くしたいです、できれば友達になってください、みたいな感じを頑張って伝える。向こうがどう思うかは知らん。でも、もし本当にこの世のどこかに“まだ名前のついてない何か”がいるなら、俺は一回くらいちゃんとこの目で見てみたい。
そういうわけで、今日はここに来ています。
「はいどうもー、こんばんは。というわけで本日の配信はこちら!」
俺はスマホを少し高く持ち上げて、背後の暗い木々が映るように角度を変えた。
「樹海でーす」
画面の向こうに向けて、わざと少し明るめに言う。
映っているのは、似たような木がずっと続く暗い森だ。昼間ならまだしも、陽が落ちかけた今は、入口の時点でもうだいぶ雰囲気がある。普通のやつなら引き返したくなるかもしれない。でも、俺はこういうの、嫌いじゃない。むしろ好きだ。
「いやでもね、今回ここを選んだのにはちゃんと理由があります。なんとこの樹海、昔から謎生物の目撃談がちょいちょいあるらしいです。しかも、ただの動物見間違いじゃ説明つかない系のやつ。これは熱い。非常に熱い」
コメント欄が流れる。
やめとけとか、どうせ鹿だろとか、猫だよ猫とか、そんな文字がちらほら見えた。失礼だな。いや猫も好きだけど。
「いやいや、そうやって全部見間違いで片付けるのは夢がないって。いいかみんな、人類は昔から、未知を見つけてここまで来たわけよ。最初から『どうせ気のせい』で終わらせてたら何も見つからんのよ」
言いながら、俺は樹海の中へ足を踏み入れた。
地面は思ったより柔らかい。乾いた落ち葉が積もってる場所と、妙に湿って沈む場所が混ざっていて、足裏の感触がたまに変わる。木々はどれも似たように見えるし、少し進んだだけで入口の気配が薄くなる。この感じが、またいい。ちゃんと“何かがいてもおかしくなさそう”で。
「見てこれ。もう雰囲気完璧じゃん。こういう場所よ。こういう場所にいてほしいんだよ、謎生物ってのは。ビル街とか商店街にいたらちょっと嫌だろ。いや、それはそれで面白いけど」
風が鳴る。
枝が揺れて、葉の擦れる音が頭上で重なった。
俺はにやっとしながら、その先の暗がりにスマホを向ける。
「さあ、今日こそ見つけてやろうじゃねぇか。伝説の一体を」
そう言って、俺はもう一歩、奥へ進んだ。




