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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
第八回世界覇蹴戦_IRIS.log

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プロローグ

 俺たちは弱い。


 それは別に卑屈でも何でもなくて、ただの事実だ。


 勝てない試合は多いし、追いつけそうで追いつけないことも多い。あと一歩だったな、惜しかったな、よくやった方だろ、そういう慰めみたいな言葉には慣れてる。悔しい顔で笑って、次だ次って言い合って、結局また次でも足りない。そういうのを何回もやってきた。


 でも、だからって負けるのが当たり前になったことはない。


 慣れたのは、勝てない現実にだけだ。

 負けて納得することには、一回も慣れてない。


 世界覇蹴戦は、名前だけ聞けば派手だ。大きい会場、大きい歓声、でかい看板、取材、配信、特集記事。夢みたいな舞台だって言うやつもいる。実際そうなんだと思う。ここに立てるだけで十分すごいって言われれば、それも間違ってない。


 けど、そんなので満足できるなら、最初からここまで来てない。


 俺は勝ちたい。


 綺麗ごとじゃなく、ちゃんと勝ちたい。

 名前だけ残る出場じゃなくて、最後に立ってたい。

 すげえ試合だったなって言われて終わるんじゃなくて、勝者として終わりたい。


 そのために、俺たちはここまで来た。


 青嵐は強豪じゃない。

 優勝候補でもない。

 正直、注目されてるのはチームじゃなくてハヤトだ。


 ハヤトはすごい。俺が言うんだから間違いない。点を取る嗅覚があって、勝負所でちゃんと決められて、何だかんだ一番華がある。昔からそうだった。幼稚園の頃から一緒に球を追いかけてきたけど、あいつが前に出ると、空気が少し変わる。


 でも、ハヤト一人じゃ勝てない。


 そんなことは、俺が一番よく分かってる。


 俺はエースじゃない。

 中盤だ。

 点を決めるのはだいたい前のやつらで、名前が大きく出るのもそういう連中だ。俺の仕事はもっと地味だ。拾って、繋いで、走って、声を出して、崩れそうな流れをどうにか前へ押し返す。


 それでも、俺はこの場所が好きだ。


 球が足に吸いつく感覚とか、味方の走る気配とか、しんどくて肺が焼けそうなのに、まだ前へ行けるって思う瞬間とか。そういうの全部まとめて好きだ。


 熱中した、なんて言葉で済ませるには長すぎる気もする。

 でも、たぶんそうなんだろう。


 俺はずっとこれに熱中してきた。

 勝てない時も、どうしようもなく悔しい時も、向いてないんじゃないかって思った時も、結局また球を蹴ってた。


 だから今さら、途中で満足なんかできるわけがない。


 開会前の通路は、いつも少しだけ冷えている。照明の光が白くて、壁に反射して、足音がよく響く。前を歩くチームメイトの背中を見ながら、俺は深く息を吸った。緊張はある。手のひらも少し湿ってる。でも嫌な感じじゃない。こういう時の緊張は、まだやれるってことだ。


 横から肩がぶつかった。


「固いぞ、ユウ」


 ハヤトだった。


「うるせえ」


「顔怖い」


「元からだろ」


 そう返すと、あいつは笑った。こっちも少しだけ笑う。こういうくだらないやり取りだけは、何年経っても変わらない。


「お前さ」


 ハヤトが前を向いたまま言う。


「今日、最初から飛ばしすぎんなよ」


「それ俺の台詞なんだけど」


「いやお前、すぐ自分から潰れにいくじゃん」


「誰のせいだよ」


「知らねえよ」


 そんなことを言いながら、俺たちは並んで歩く。


 前には仲間がいる。

 後ろにも仲間がいる。

 その真ん中で、俺は不思議と落ち着いてきていた。


 弱いのは事実だ。

 でも、ここまで来たのも事実だ。


 だったらやるしかない。


 どうせ無理だと思われてるなら、なおさらいい。

 最後に立つのが俺たちだったら、そっちの方が気持ちいい。


 通路の先から歓声が聞こえた。

 会場が、俺たちを待ってる。


 俺は一度だけ拳を握って、それからいつもの声で言った。


「行くぞ」


 誰に向けたでもなく言ったのに、前のやつが「おう」と返して、後ろからも何人か声が重なった。


 そういうのが好きだ。


 まだ始まってもいないのに、もう少しだけ勝てる気がする。

 そういう馬鹿みたいな感覚ごと、俺はここへ持ってきてる。

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